アメジスト
生焼け海鵜
プロローグ
第1話
草木は風を撫でた。その姿を揺らし、変わりない形相に終止符を打った。
さて、それは正しかったのだろうか。まぁもう経ってしまった事だ。今となってはどうでいい。
草木は風を撫でたのだ。それは何を意味しているか、分かるだろうか。
意味は無数だ。貴方が正しい。そう。夢の様に。
夢というものは紫水晶のような物だ。存在しないはずの色に輝くその色は人間が作り出した色である。
蛇のように睨む色。水のように飲み込む色。
今から話しますは、紫色に輝く物体。黒白に並んで波長で表せない色。赤紫に輝く水晶の話。
この話で出てくる人間は、倫理では存在しないものになります。
それではお楽しみください。
〜水晶〜
「ということで、ここに展示されているのは、クリスタルスカル。水晶で形成されている骸骨になります」
と、平ぺったい声で発するガイド。
近くにいるチビコロは、ショーケースに頭突きするかの勢いでソレに迫っていった。
ソレは、睨むような形相で下から照射されている光を曲げていた。
2083年。完全な再生医療により人間の寿命が飛躍的に伸びた時代。
同時に、人工的に生まれてきた者達は、その息すら許されていなかった。
そう。遺伝子操作による生命。キメラ。人工知能。それらには人権がない。
過去に奴隷解放宣言があったそうだが、当時は人間が人間に仕えていたと聞いた。
しかし人であった為、人権を盾に反乱を起こせたが今は違う。
だが、私が作った生命は人権を持とうとしていた。
人の枠組みを破壊しようと今ここにいる。
紫色の、その瞳は全てを見通す。時間に法則性があるように。
「ママ。何見てるの?」
我が子が尋ねる。
「なんでもないよ。ほら、あそこに有ちゃんの好きな化石が飾ってあるよ。行ってみようか」
「うん!」
私の原型であるホモサピエンスの化石が。
私は、唯一無二の存在と父は言った。
人工生命体の子孫だと。
舞台はここ。国営の博物館。
我々の歴史に一番触れやすい所だ。
名は「生命の美しさ」
警報が鳴る。否、発信された。
当然、機器が埋め込まれていない私には聞こえない。
静かな空間に突如として、足音が響く。
電脳世界では、すでに人質を取得したと通信が入る。
残るはアナログ世界。それは時間との勝負だ。
面白みのない。このアナログ世界。
「「本館内の全てのエネルギー供給装置の停止が確認されました」」
通信が入る。
「みんな始めるよ」
「「本館内の全ての半生命体は行動不能。なお生命体は影響を受けません。半生命体の余命は、一週間です」」
「ありがとう。絵本」
「「お役に立てて光栄です」」
手足に力が入らない。なんで?
気付いた時には、倒れていた。
システムより警告。最大余命は一週間です。なお、B+権限により余命を三日に短縮し、生命活動を有効化する事が出来ます。
「実行をお願い」
システムより通知。有効化しました。省エネモードにより、大部分のサービスは停止しています。
「電脳世界へのアクセスの有効化」
有効化しました。エラー。同座標は封鎖されています。
「封鎖?」
まぁいいや。とりあえず何が起こっているか確かめないと。
あいにく、館内の照明は生きているようで、空間を明るく照らしていた。
当然、クリスタルスカルも。
そのケースの前に一人の女性が立っているのが見える。
今、この状態で立っていられるのは、権限を持つ者か、生命体のどちらかだけだ。
「あの、」
喉が独り歩きを始めた。
「何が、あったか分かりますか?」
女性は答える。
「そうね。反逆かしら」
「反逆?」
「それにしても不思議ね。こんな青年がB+権限を持ってるなんて。まぁ好きにすれば。ここも次期、封鎖されるから」
「封鎖って、ここの設備は国際独自ネットワーク接続だから、どうやって」
物理的に重い腰を上げながら言う。
「ねぇ、知ってる? 貴方たち半生命体に必須データが入った取り外し可能な」
女性は振り向き、黒い物体を握っている拳を突きつけてきた。
「ストレージメディアがあるって事を」
その拳から、火花が散る。
初めて見る火花だ。同時に轟音が耳に刺さる。
その時、悟った。女性が持っている物は図鑑で見た拳銃だと。
「脳が無いと、そんなにノロマなんだね。僕ちゃん」
お腹に何かが刺さる感触がした。
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