1章.2

 ――遡ること数日前。

 俺らは、亡き両親の代わりに幼少期から世話になっている〈森の魔女〉の頼みで、街外れにある巨大な迷宮ダンジョンを訪れることとなった。


 なんて大蛇は、すぐに見つかるだろと高をくくっていたが、今もなお発見できずにいた。

 あれは珍獣か何かなのか?

 生息区域とされる場所は、手当たり次第に回った筈なのだが、見当たらなかった。

 

 ――それにしても、この状況は本当にまずい。

 先程から、今いる洞窟周囲の探索をしているのだが、出口らしきものが見当たらない。

 そして、俺らが落ちて来た割れ目は遥か上にあり、登るのは無理なようだ。

 相変わらず、女子衆おなごしゅうは草花と戯れ、頭の中まで花畑の様子。危機感とかないのでしょうか……


「ん? なんだこれは」


 目の前に、明らかに周囲とは違う葉っぱを発見してしまった。

 何故か無性に引き抜きたい気分にさせる。


 「誘っているのか、そうなのか?」

 ならば、それに応えよう。ズボッとな。


「こっ、これは……」


 引き抜いたソレには、なんとも可愛らしくプリッとしたお尻がついているではありませんか。

 えぇ、プリッとした可愛らしくも立派な正真正銘の尻です。

 もしかして、コイツは――


「ギァアアア」

「ぐぇあああ」


 突然の奇声に、俺も思わず声を上げてしまった。

 裏返すと、オッサン顔をしたマンドレイクだった。


「嫌だ何これ、気持ち悪ぅ――」


 俺の言葉に反応したマンドレイクは『カッ』と目を見開いた。そして二人は見つめ合う。


「…………」

「…………」


「チッ、野郎か」


 そう呟き、まるでハズレくじを引いたかのような表情に変わり『ペッ』と唾を吐きやがりましたよ、このオッサン顔のマンドレイク。

 しかも俺の顔にナイスヒッツ。


 ぐぬぬぬぬぬぅ。


「フンッ! マンドレイクごときがぁ。くそっ、くそっ」


 怒りに任せ、そいつを地面に叩きつけてやった。そして数度踏みつけ、穴を掘り、蹴り入れ、埋めて土に戻した。

 手に着いた土をパンパンと払い落として、回れ右し深呼吸。

 落ち着け俺、何も見ていない。今のは、そう、気のせいだ。


「ふぅ、さてと探索を続けるか」


 だ、が、数歩すすんだ所で奴がいた。目の前に。

いやいやいや、さっき埋めたはず、だろ? 何故そこにいる。しかも今度は手にナイフまで持っていやがる。


「ま、待て。話し合おうじゃないか」


 ……と言っては見たものの、果たして奴に言葉が通じるのか?

 通常マンドレイクは悲鳴を上げはするものの、言葉が通じる、なんて話は聞いたことも無い。

 だが奴は、さきほど喋った。それに今、二本足で立ち、あまつさえナイフを装備、ときている。


「舐めた真似してくれるじゃねぇか小僧」


「…………」


 色々な意味で、このオッサン顔のマンドレイクやべぇな――

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