クリア後の世界にロマンを見ちゃダメですか?

夜々

第1話


 ――――魔王は倒されました。


 という文面がデカデカと表紙を飾る号外が振り撒かれた。

 人々は笑った。嬉し涙を流した。悪は滅びたと歓喜に身を震わせ、快挙を果たした勇者に喝采の嵐を贈った。

 

 ――――未開の地の踏破に成功しました。


 ――――神獣と呼ばれる魔物の捕獲が確認されました。


 ――――古の文明の全貌を解明されました。


 ――――世界地図が完成しました。


 嗚呼、素晴らしい。実に素晴らしい。

 人は不可能を可能にし、未知の既知へと転じさせ次々と偉業を成し遂げていく。

 実に喜ばしく誇りに思う。

 彼らは人々からの称賛を受け、羨望の眼差し向けられ、そして手に入れた富と己が打ち立てた功績を酔いしれるだろう。

 そしていつか自分も! と幼き子は先駆者に憧憬を抱く。

 人の役に立ちたい。歴史に己が名を刻みたい。そんな御大層で崇高な想いなどではない。

 ただカッコよく見えた。

 衛兵が畑を荒らす猪を追い返す様に少年が勇ましさを感じるように。

 貴族の煌びやかなお召し物に少女が憧れるように。

 その程度のちっぽけな理由。些細な動機。

 だが幼き少年少女にとっては想いを夢へと昇華させるには十分なものだった。

 子どもたちは毎日のようにコレをやりたい、こんな人になりたい仲間内で荒唐無稽な将来の夢を語り合う。


「いつか2人で村を出て旅をしよ!」


 そんな具体的な手段も目的もない馬鹿げた夢を口にする子どもいる。何の根拠もなく明るいと信じる未来に想いを馳せること自体が子どもたちにとってはたまらなく楽しいのだ。そしてそれが叶うと心の底から信じている。

 ある日、いつものように村へ英雄が為した偉業が伝えられた。

 

 ――――この世界は制覇クリアされました。


 

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