クルマについてのエトセトラ

詩川貴彦

第1話 自動車税

「自動車税」


 五月です。ゴールデンウイークも無事に終わり仕事が始まって、ようやく気持ちのエンジンがかかってきました。初夏の日差しや風が心地よくて、もうすぐ来る夏のことを考えるだけで楽しみです。週末にはあの子を誘って蛍を見に行こうかとか、海辺にドライブにいこうとか、なぜか心がウキウキする気持ちがいい季節であります。

 今日は金曜日。とても開放的な気分で家に帰って、いつもの習慣でポストをチェックしたら、滅多に来ない封書が届いています。

「なんじゃろう。」

と思ってよくみたら、案の定、自動車税の納税書類です。だいたい役所から届く書類はろくでもないものばかりですが、こいつはすさまじい破壊力をもっており、先ほどまでのウキウキ気分など木っ端みじんに打ち砕く威力があります。しかも納付期限5月31日などと偉そうに書いてあります。なんで金を払う方がペコペコし、搾取する方が上から目線なんでしょうか。ワシはいつもこの通知を受け取るたびに、あおり運転されるよりも不快な気持ちになってしまうのです。

 ワシの家には、3700cc、2000cc、1500cc、1000cc、660ccの5台の車があります。全部合わせて約18万円の自動車税を払わなければなりません。

「まあ高額納税者!お金持ちなんですね。」

とかいう方がいらっしゃいますが、はっきり言ってワシは貧乏です。

 2年前に定年退職を迎え、過去の社保庁の野郎の使い込みのおかげで、あと数年間は年金も出ないので「再任用」という仕事量はそのままで収入は半減という波の中であがいています。朝五時半に起きて7時に出勤して、夕方の5時までみっちり働いています。還暦を過ぎた身体に鞭打って、あちこちの痛みに耐えながら、いつ倒れるか分からない状態で仕事をしています。それでも日々の生活では足が出てしまっているので、退職金がどんどん減っていく状態です。このままでは近い将来、破綻しそうなので考えないことにしています。

 よくよく見ると「カード払い可」と書いてありました。せめてもの抵抗を試みようと、ワシはエディオンカードで支払って、せめてポイントを稼いでやろうと考えました。しかし、カード払いの場合、手数料一台につき200円を取られることが判明したので、よけいお金がかかりそうで断念しました。それから一週間ぐらいかけて、18万円をかき集め、先日やっと納付しました。

 18万円あったら、ワシの大好きなメロンが何個食べられるのだろうと考えながら銀行にいきました。はっきり言って勿体ないと思いました。勿体ない。クルマを維持するのに毎年こんなにお金がかかるのだろう。このお金はどこに行くのだろう。誰がおいしい思いをするのだろう。政治家がメロンを食べるのだろうか。それとももっと有意義なことに使われるのだろうか。などなどいろいろなことを考えました。

ワシは基本的には、自動車税については、ワシがクルマを複数所有しているので仕方がないと思っています。それで道路や交通網が維持管理されて、ワシたち国民の安心安全につながっているのなら仕方がないと思っています。

 しかし、例えばワシの所有する3700ccのクルマなんかは、せいぜい月に1,2度出して、数十キロ走るのが関の山です。あのクルマはフィギアなのです。年間数百キロで65500円。ちょっと高いのうと思います。いくら排気量が大きかろうが、使うガソリンも排出する二酸化炭素も、毎日乗っているクルマに比べたら微々たるものだと思います。資源の問題、カーボンフリーの問題、環境問題や道路を傷める度などを考えても、ワシがどうしても納得できない部分です。この国では、なぜか排気量や重さによって、税額が決められています。まあ、わかりやすいっちゃあわかりやすいのですが、はっきりって不公平だと思います。

 ワシはクルマの使い方で税金を決めるべきだと思っています。そのほうが公平で誰もが納得できるような気がします。

 具体的には、個人所有の「自家用車」は、年間の走行距離で税金を決めた方がいいと思っています。車検時には、その時点での走行距離が明記されるわけですので、2年間の走行距離を把握することは簡単です。その走行距離に応じて、次年度の税額を決めるなり、満額を支払ったうえで、ポイントでキャッシュバックするなりすればいいだけの話です。これからの環境問題等を考えると、使ったガソリン、排出した二酸化炭素等の有害ガス、道路を傷めた度、すべてが走行距離に比例するわけですから、いろいろな意味でとても公平だと思います。こうすると、絶対にメーターを巻く(走行距離を戻す)ヤツが必ず出てくると思いますが、いくらメーター巻いてもクルマのコンピューターに記憶が残っているはずですし、そんな不正を見破ることなんて、今の技術なら簡単だと思います。

 ついでに、ワシを含めて用もないのに走る方々、夜中に爆音出して走り回る方々、道路交通法を無視して競争する方々など、ずいぶん減ってくるのではないでしょうか。つまり一人一人が、クルマで走るということを考えるようになるのです。近くのコンビニに行くのに、走行距離が伸びて税金が高くなるので歩いて行こうかと考えるようになれば、大げさに言えば一人一人の健康にもつながって、医療費負担も軽くなるかもしれません。つまり自己責任です。水道代も電気代もしばらく食べていない焼肉代だって、使えば使うほど食べれば食べるほど高くなるのは当然のことだと思うのです。個々の行いはわずかでも、集まれば大きな力になると思います。

 もしそうなったら、ワシは自己責任でクルマを走らせ、納得して進んで自動車税を支払いたいと思います。


 そうやってやっと死ぬ思いで自動車税を払って、5月が終わってホッとしていたら、何やら怪しい封書が今度は市役所から届きました。開けてみたら今度は「6月30日までに市民税21万円支払え」との通知でした。

「ガーン!」

 自動車税払ったので、もう逆さにしても鼻血も出ません。どないしましょう。

 ワシは今、ショックで寝込んで、布団の中でこの原稿を書いています。

「私は今、ロスに向かう飛行機の中でこの原稿を書いている。」

一度でいいから、こんなことを言ってみたいのう。

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