第39話 極々極めて稀に


「っふ、ふわぁ~~~~~~~~!」


勝負が決着したことで気の抜けた私はその場にへたり込んだ。


隣でウサギも元の大きさに戻り、地面に溶けている。



バロンはそんな私たちを瞥見べっけんして、勝利の余韻に浸るように前足を舐めた後、毛繕いを始める。


その体はしっかりと乾いており、濡れていない。水がなくなるのに合わせて毛皮もうひについていた水も消えたようだ。



バロンと大蛇の息の詰まるような戦いに遠慮して声を出せずにいたが、大蛇の起こした荒波は私たちをも襲っている。


必死で近くの岩に張り付いて、流されないように頑張ったけれど、ウサギのモッフモフな毛が水を吸って見るも無残な姿になっていた。


自分では確認できなかったが私も凄いことになっていた気がする。



良かった。本当に、良かった。水が消えてくれて。


バロンのように軽やかに大波を避けられれば被害も少なかったのかもしれないが、私たちには無理だった。


大蛇の起こす津波を大蛇を足場にして避けるような芸当は私たちにはできない。


非力な女性と兎では大蛇の反撃が怖くて接触など不可能だ。


避け損ねたらそこで試合が終了してしまう。


そのため、必死で大岩に張り付いて耐えていたが、波が打ち付ける衝撃だけでもダメージが入り、大変だった。


ウサギがモッフモフやぞで衝撃を吸収しようとするも自慢の毛は濡れ鼠で効果を半減され、ポーションを取り出そうにも両手は岩から離せず使用できなかった。


応急手当と医術を駆使してなんとかバロンが大蛇を倒すまで耐え抜いた私たちの間には苦難を共に乗り越えた連帯感が生まれつつある。


ありがとう、ウサギ。君がいなかったら渦に飲み込まれていたかもしれない。


感謝の念を込めてウサギの毛を梳いて整えてやる。次いで自らの乱れた髪も手櫛で直す。



ところで、目の前で主張も激しく踊るテロップはなんぞや。


大分、気力が戻ってきたところで画面に意識を移し、文字を確認する。



《西の国へ移動しますか? ▼はい ▼いいえ》



やった!これで砂漠を抜けられる!


喜び勇んで「はい」を押すと、警告文が飛び出してくる。



《極々極めて稀に強力なモンスターに出会うことがあります。本当に移動しますか? ▼はい ▼いいえ》



え、こわっ。強力なモンスターって、初対面時のバロンみたいな?バロンがいるとはいえ、こちらは弱体化されている。勝てるだろうか。


不安に思いつつも「はい」を選ぶ。このまま砂漠を彷徨うのは嫌だ。



選択とともに霧に包まれ、視界が蒼く染まる。深い深い水底みなそこから空を見上げたような感覚にとらわれる。


溺れる、そう思って閉じた瞼に光を感じ、不思議に思い目を開ければ、そこは紅葉色の広場であった。



《西の大国が解放されました。以降、西のボスは弱体化します。》



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