第3話 辺境へ向かおう!!
街を出た私は、ヒポポに乗って街道を進む。
カリーンの開拓予定の領地、私の新しい職場はこの国の北の外れになる。
カリーンには、すでにお世話になることを連絡済みだ。もろ手を上げて歓迎する、との返信があった。
「カリーンもいちいち大袈裟だよな。私みたいな普通の錬金術師に出来ること、たかが知れてると思うんだが。錬金術師なんて所詮、便利屋みたいなもんだぞってハルハマー師の口癖だったな……。いや逆に開拓地だからこそ便利屋みたいに何でもそれなりに出来る人員が必要か」
私はヒポポの上で大きく伸びをする。
リズミカルなヒポポの足音。
春の陽気に満ちた風が気持ちいい。
最近は雑用と、研究のため少ない予算をやりくりするのにかまけていて、外出自体、久しぶりだ。前はよく、ここら辺まで素材の採取に来ていたのだが。
こうして外に出てみて初めて、自分があの環境でどれだけストレスを感じていたか、ようやく理解する。
「最悪、ヒポポを全力で走らせれば数日でつくし、久しぶりに採取でもしてくかな」
私は街道を外れるようにヒポポに指示。素材となる薬草の群生地へとヒポポをすすめる。
「湖の脇の群生地、まだ残っているかな~」
その時だった。ヒポポが突然ぶるるとなくと、その尻尾をパタパタ動かし始める。
これは何か異変があったときの合図だ。
私は身構えると、ヒポポに、感じた異変に慎重に近づくよう指示。
合図の種類から、怪我人なんかの可能性を念頭に置いておく。
そして薬草の群生地の手前、私は倒れている人間を発見する。
「ヒポポ、周囲の警戒、よろしく!」ばっと鞍から降りると私は念を入れて慎重に倒れている人へと近づく。
これが街道沿いであれば、何らかの犯罪者が怪我人を装っているワナ、なんてこともあるが。こんな誰も通らない場所ではその可能性は限りなく低い。
逆にその倒れている人が倒れる原因となった何かが、周囲に潜んでいる方が怖い。私たちが近づいたことでとっさに隠れた可能性があるので。
しかし、何事もなく倒れている人のそばにつく。
倒れていたのは青を基調とした神官服をまとった女性だった。
「珍しい。神官騎士か。しかもこの神官服、確か復讐の女神の信徒の……」
私は呟きながら膝をつく。
うつ伏せに倒れたその人の肩に手をかけ、意識の確認をするため声をかける。
服ごしでもわかる、手のひらに伝わってくる熱。どうやら発熱しているらしい。よく見ればその透き通るような銀髪も汗でしっとりしている様子。
「意識は、なしと。そういえばこの先の薬草の群生地には解熱の薬草もあったな。この人もそれを知って? しかし、このままじゃあ気道の確保も、体の状態の確認も出来ないぞ。仕方ない、仰向けにするか」
私は出来るだけ頭を激しく動かさないように気を付けながら、その神官騎士を仰向けになるよう動かす。
あらわになる、その顔。
白い肌が熱のためか赤らみ、苦痛に歪んでいる。それでも損なわれていない美しさは、はっと目を引く。
しかしその顔には、黒々とした入れ墨のような物が大きく刻み込まれていた。
「これは呪いか!」私はそれを見て、急ぎリュックサックからスクロールを取り出す。
「《展開》」
空中に固着されるスクロール。今回は地面に横たわる神官騎士の女性の額の真上にて、くるくるとスクロールが広がる。
「《転写開始》」
額の上に固定されたスクロールが、光り出す。
それは一条の光となって、横たわる神官騎士の女性の体へと降り注ぐと、頭の先から爪先に向かってゆっくりと下って行く。
私はその様子をじっと観察する。
爪先に光が到達したそのタイミングで、呟く。
「《示せ》」
スクロールに文字が浮かび上がってくる。それは目の前の横たわる女性の情報。もちろん、簡易的なものに過ぎない。しかし怪我等、大まかな体の状態はこれで十分見ることが出来る。
「やはり顔のは、呪いか。──緊急性は低いな。ただ、位置情報を術者へと伝えてしまうタイプか。この人も苦労しただろうに……」
スクロールを下へ読み込んで行く。
「あった! 発熱の原因、毒か! 脇腹に傷と、そこから毒が入ったか。……特殊な毒だな。これは使い魔の毒……。手持ちのポーションだと適合しない。この先の群生地の薬草で新しく作るか」
私はそこまで読んだスクロールの展開を終了すると、リュックサックにしまいこむ。
「ヒポポ! この人の護衛、よろしく!」私はヒポポに告げると、リュックサックから取り出した一本のポーションを片手に、群生地へと向かって駆け出した。
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