第156話 九一式徹甲弾
いつも、いつも、綺麗に、綺麗に、私は磨かれていた。
いつの頃からか、自分というものが朧気ながら、判るようになっていた。
「今日も綺麗にしてやるからな。」
「今日も立派だな。」
「カッコいいなぁ。」
毎日毎日、その人は私の事を褒め称えながら、見事な腕前で私の事を磨き上げる。
お蔭で純白の私のボデーはいつもピカピカで鏡のようだ。
ホンノリとした電球が灯る、無機質で狭い空間。
最初は、もう少し広い、その人はその部屋を弾庫と言っていた。
私は気が付いたときから、その人に磨かれ、話しかけられる存在だった。
「お前は最強だ。世界最強だ。」
「世界最強の九一式徹甲弾とはお前のことだ。」
「絶対に命中するんだぞ。」
その人はいつもそう言いながら私を磨き上げる。
そう、私は九一式徹甲弾という存在。
鋼鉄の破壊神だ。そのように産まれたようだ。
全長195.5センチ。重量1460キログラム。全体は美しい白色、先端と腹部の帯が赤色で、「九一」と大きく名前が彫ってある。
鋼鉄の破壊神が白装束を着装し、朱色の鉢巻と帯で着こなしている様だ。
しかし、私は最終兵器。出番はそうは無かろうと、そう思っていたのだ。
思い返せば、この船に乗り込み、長い航海が始まってからも、この船はとても安定していてそれほど揺れることもなく、私や仲間達は弾庫という居室で静かに眠っていたのだ。
もちろん、なかには早く翔び立ちたいと話す仲間も居る。しかし、私はなるようになるとしか思っていなかったので、相槌を打つだけだった。
いつも私は落ち着いていた。なんだろうか、私の中には、規定だと33.85キログラムの炸薬が入っているはずだが、規定より少ないのか、そこまで高ぶることも無かったのだ。
しかし私の存在意義に関わるので、イザというときに不発では困るのだが。
そして日々を過ごすうちに、私達の出番は突然やってきたのだ。
最初の奴がコンベアに乗って運ばれていったのは小一時間前か。
それからは順番に運ばれていき、私も少しずつその出番が近付いてきた。
現場は大忙しのようだ。
その人は、一弾一弾最後に磨きを掛けながら送り出してゆく。
私達は無言のように見えるが、皆、海軍工廠で産まれた仲間達だ。私には解る。皆が喜んでいる。
そして私の出番もきた。その人は、皆と同じように私を丁寧に磨く。
「頼むぞ。」
わかってるよ。任せておけ。
答えられないが、応える。
すると、その人は、周りをさっと見渡すと、ポケットからマジックを取り出し、私に「必中」と書き込んだ。
「お前は俺の特別さ。だから必ず命中して、お前の力を!日本の力を!アメリカに!世界に知らしめてくれ!頼むぞ!!」
くすぐったいだろ、俺だけそんなに期待されても、少し困るのだがな。
だがまぁ、悪い気はしない。
その人に送られて、弾庫を出る。
傍らでは他の人が水圧で動く運弾盤を操作している。
そして次に運ばれたのが給弾室だ。まだ並ぶらしい。
そうか、すぐに発射されるのではないのか。
しかし順番が着実に近付いてくる。落ち着いてはいるが、不安と期待の気持ちがある。
皆そうなのだろう、無言だ。しかしその表情は覚悟を決めていて良い表情をしている。
さあ、いよいよ私の番が来た。揚弾筒というエレベーターに入ると、一気に上昇する。
運ばれた先は、遂に主砲砲塔の入口だ。
私は横向きの姿勢となると、水兵がチェックする。
私に「必中」と書かれているのを見つけ、水兵は呟いた。
「清水のやつめ、しかたないやつだな。」
そう言って微笑みながら一撫でし、私は装填機で押し込まれて砲室に入った。
砲室の中は熱い。砲身が熱を帯び、灼熱だ。
熱いな、砲身よ。
声をかけると、すまんな、我慢してくれと応じてきた。よく考えれば砲身の方が辛いかもな。私達がライフリングも削ってしまうし、これは何発ももたないだろうな。迷惑をかける。
そのうち後方に炸薬が押し込まれてきた。その火薬の量は330キログラム。
とんでもない量だ。私を40キロ先までぶっ飛ばすのだ、このくらい必要なのだろう。
そして尾栓が閉じられると、いよいよ発射だと覚悟を決める。
頭上の射出口からは青い空が見える。
これからあの空に飛び立つという訳か。いつでも行くぞ!
しかしそれから数分間は、船を回頭しているようで発射されなかった。
そしてすっかりリラックスして砲身の温度も少し下がった頃、船の回頭も終わり、主砲は角度を上げた。
さあ、いよいよだな。
もう覚悟は出来ている。いつでもいいぞ!!我を解き放て!!!
一瞬!!!
火閃閃閃閃閃閃閃閃!!
綺羅羅羅羅ァ!!
凄まじい光と衝撃を感じた次の瞬間には、私は8発の仲間と一瞬の時間差で発射され、大空に飛び出していた!
初速は秒速780メートル!!
私はライフリングによって華麗に回転運動を与えられて突進する!!
発射角度が浅めなので、成層圏下層の対流圏で放物線の頂点を迎える!!
そこではコリオリの力、気圧傾度力、地面との摩擦力、ジェット気流等の影響を受けるが、それらの力すら推進力に変えてゆく。
そして、遥か先に、目標としている敵戦艦を初めて視認したのだ。
そこでなんとなく悟る。
自分は良いコースを飛翔していると。
仲間達は、少しズレているようだ。残念だ。
その仲間達が声を掛けてくる。
俺達の分まで頼んだぞ!!
俺達の力を見せ付けてやれ!!
任せておけ。お前たちの分まで、やってやるよ。
私はあらゆる力を運動エネルギーに変換し、叩きつける相手を目指して下降に移る!
10.仇.捌.漆.陸.伍
ど真ん中に必中だな!
死!
耐えられるか!!
参!
世界最大!!
弐!
世界最強の我が力を!
壱!!
死ねい!!!!!
華華華華華華華華華華華華華華華華
華華華華華華華華華華華華華華華華
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
弩豪豪豪豪豪豪豪豪豪豪豪豪貫唖唖阿吽!!!!!!
業業業業業業業業業業業業業業業業ゥゥゥ!!!!!!
臥臥臥臥臥臥臥臥臥臥臥臥臥臥臥臥ァァァ!!!!!!
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