第148話 水雷屋の血潮
激しく発砲を続ける戦艦大和以下打撃部隊から若干の距離を置き、粛々と後に続いているのは第3水雷戦隊である。
水雷戦隊とは、軽巡洋艦を旗艦に駆逐艦で編成され、艦隊戦における魚雷での一撃必殺を信条とする突撃隊であり、日本海軍においては現在6個水雷戦隊が編成されている。
そして、今解き放たれようとしているのは、第3水雷戦隊。
旗艦、軽巡洋艦川内(せんだい)以下、駆逐艦吹雪型吹雪、初雪、白雪、白雲、東雲(しののめ)、叢雲(むらくも)、綾波、敷波、浦波、磯波、夕霧、狭霧(さぎり)、天霧(あまぎり)、朝霧、初春型初春、初霜の17隻である。
旗艦川内に座乗するのは第3水雷戦隊司令官、橋本信太郎少将である。
橋本司令官は49歳、水雷を専攻して司令官まで上り詰めた日本海軍きっての水雷屋である。体格も良いため、どっしりと落ち着いた雰囲気を持つが、冷静沈着というより、冷静豪胆な男である。
艦長は島崎利雄大佐、司令官と同様に水雷を専攻した水雷屋であり、小柄な体格ながらも柔剣道で鍛えた身体は勇猛さに満ちている。
司令官も艦長も、水雷屋に相応しい荒々しい男であった。
「大和から通信!!第3水雷戦隊は直ちに左回頭!距離一万五千で魚雷
反航戦!第一目標は敵戦艦群!斉射後は司令官指揮!です!!」
「やっと来たか。」司令官は呟く。
「そうですな!この時をどれほど待ちわびたか!」艦長は嬉しそうに応ずる。
「準備はよいな。」
「ハッ。万端であります!」
艦橋内の全員が司令官を見詰めている。
橋本司令官は制帽の先端を軽く直すと、深い双眸を見開き檄を飛ばす!
「然れば!各艦に通達!これより
本戦隊は突撃に移る!!縦陣列にて本艦に続け!反航戦で隠密遠距離発射を行う!!」
「了解!本戦隊は突撃開始!!縦陣列にて本艦に続け!反航戦で隠密遠距離発射を行う!!」
復唱され、発光信号、手旗信号で命令が直ちに伝達される!
「取舵一杯!300度まで回頭!!」
「取舵一杯!!300度まで回頭!!」
操舵手が舵を左に回すと、一拍後!
グググググッ!
軽巡洋艦川内は反応よく左回頭を開始した!!
あっという間に前方の戦艦群が離れていく。
「戻ォセェィ!」
「戻ォセェィ!」
川内は回頭を終え、舵を正面に戻す。
島崎艦長が進言する。
「司令官、5戦速で突撃しますか!?」
橋本司令官は未だ遠い敵艦隊を双眼鏡で捉えながら指示を出す。
「フフフ、5戦速はやりすぎだよ、早く近づくのは良いが、魚雷発射の段階で減速するのは計算と統制が難しい。隠密発射に適した速度は第2戦速だ。」
「速度は第2戦速とせよ!!」
「了解!速度第2戦速!!」
艦は時速約45キロメートルで波を掻き分け疾走を始める!
後続艦も一糸乱れぬ操艦で次々と続く。
橋本司令官が問う!
「諸君!!水雷屋の血潮とはなんだ!」
艦橋内の全員が唱和する!!
「進軍せよ進軍せよ!もっとも大なるものに危険を意図とせず進軍せよ!!」
「そうだ!!全軍突撃!!」
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