第96話 高度6000メートル

私は今、空母機動部隊の上空6000メートルにおいて、那須一飛曹と神鳥谷一飛兵とともに周辺警戒を行っている。


高度6000メートルの世界は酷寒の世界だ。

空気も薄いため酸素マスクを着用している。

この高度であれば短時間なら酸素マスク無しでも居られるが、長時間となると少しずつ思考力が低下し、一瞬の判断が遅れてしまうのだ。


我々零戦隊の目的は、第一に空母の絶対防衛、そして第二に敵攻撃機の撃滅である。


空母6隻から上がった零戦の数は総数78機、26小隊である。

指示通り高度3000メートル班、4000メートル班、5000メートル班の3班に別れているが、新海小隊は各員抜群の視力を買われ、最高高度6000メートルで見張り中であった。」


四方は雲量も少なく、果てしなく見通しが良い。


操縦席内はガソリンとオイルとハワイの空の香りが混じった冷たい空気に満ちており、酸素マスクの隙間からそれらの香りが僅かに混じって私の肺に流れ込み、そして身体中に染み込んで行く。


零戦も私も、同じ空気を吸って、それを糧に自らを脈動させるのだ。


音の世界は爆音だ。他の音はほぼ聞こえない。

しかしその爆音に包まれていると、何故か安らぎの気持ちになってきて、かえって集中力が研ぎ澄まされる。


目をつぶっても、機体からオーラが放たれて周囲全てを把握できるような感覚になるのだ。


実際にそれで命を救われたことは幾多もある。


私は水平線の彼方を見つめながら、必ず来るであろう敵機を待ち続けた。

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