重症恋煩い

雪うさこ

Overture




 耳元でドクンドクンと心臓が高鳴っているのがわかる。

 目の前がチカチカと火花が散っているみたいだった。


 吉田は指先一つ動かせずに、ただそこに呆然と立ち尽くしているだけだった。

 視界に映る形のよい唇の間から覗く舌は、蛇のそれのようだ。

 そう、まるで蛇に魅入られたカエルのようだった。


 ——少しでも動けば、られる!


「お前は自分に好意を示す人間には、敬意を払うと言っていたな。ではそうしてもらおうか。


 平坦で抑揚のない言葉は吉田の胸に突き刺さる。


 ——こんな男と、机を並べて毎日仕事をしていたのか? 信じられない……!


 そう叫びを上げたくても、喉に、なにかが詰まっているかのように苦しかった。








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