第5話 返してきなさい
「元の場所に戻してきなさい」
腰に両手を当てて怖い顔で梅を見下ろすクロエ。
「お願いクロエちゃん!」
目に涙を溢れさせて必死に訴える梅は胸に子猫を抱えている。
「ダメです」
「神通力で探したけど親がいないの」
「…我が家では無理です」
「まだ子猫だから1匹じゃ生きられない…」
最後の方は涙で言葉になっていなかった。
「猫はそこらじゅうで爪を研ぐし、3次元で移動するから片付けていても部屋が荒らされるからダメ」
犬なら高さのあるテーブルには上がってこれないが猫は防げない。
「元の場所に戻したら死んじゃう…」
「……保護猫団体に連れて行こう」
クロエの精一杯だった。
「クロエ〜」
「クロエの言うことも尤もなのじゃ」
「しかし梅の気持ちも分かるのじゃ」
「保護猫団体に連れて行くにしても、ある程度回復するまで梅に世話をさせてやってはもらえぬか」
付喪神たちが梅の味方をした。
確かに付喪神たちの言う通り、梅に抱かれた子猫は動かない。このまま見捨ててはいつまでも罪悪感に苛まれそうだ。
「………回復するまで」
梅と付喪神たちの顔がパアッと明るくなった。
「私の寝室と仕事部屋には入れちゃダメ。食卓もダメ。…キッチンもコンロがあるから危ないな…」
家の中はクロエの都合でダメな場所と子猫に危険がありそうな場所だらけだった。
「私の部屋でお世話する!」
クロエは1階に梅の部屋を用意していた。梅は必要ないと言ったが女の子だし自分の部屋はあったほうが良いといって梅を押し切った。
「良かったな梅」
「子猫が回復するまでに梅も心を整えるのだぞ」
付喪神が梅と子猫を囲んだ。
「クロエは何をしているのじゃ?」
少し離れたところでスマホをポチポチしているクロエに
「短い期間でも必要なものがあるでしょうが。ペットシートとか子猫用のエサとか。お急ぎ便にしたから今日の午後には届くよ」
『子猫 衰弱 世話』で検索してネットスーパーで買い物を済ませたクロエだった。
猫が苦手そうなのに意外と優しいな…と思うだけで珍しく口を噤んだ棗だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます