第99話 未知との遭遇
文化の日だと言うのに出張に出かけた。
新聞を買い新幹線に乗り込んだが、ビジネス風の乗客は私だけである。
発車前から酒盛りを始めている観光客や、大声で話をしているオバサン集団でほぼ満席状態。
「携帯電話は周りのお客様の迷惑になりますのでデッキでお使い下さい」などと車内放送をしているが、聞き取れないくらいである。
(うるさい会話もデッキでお願いします)と呟きながら新聞を開いた。
景気の悪い記事ばかりで気が滅入ってくるが、多少文化の日にふさわしいニュースも載っている。
「部長の独り言」も、文化の香りがする高尚な内容を書かなければと思い、考えを巡らせながら東京へ向かった。
我々の世代が学生時代を迎えたのは昭和40年代であった。
四畳半一間だけのアパートで、悪友たちが集まり東京生活を始めたのである。
解放された気分になれば、当然、関心事は”庶民の文化”である。
「おなごの夢 みだごどないが?」国分君が言い出した。
「ほだな しょっちゅうだべ」
「んだ んだ」一同当然のごとく頷く。
「んだげんとよ おなごの夢見でも ぼやけでよくわがらねんだず」
「おぉ! んだんだ!」更に一同頷く。
女性の経験など全く無い男同士が集まっているのだから当然である。
夢を見ようにも、脳細胞にデータがインプットされていないのだから、女性の夢を見ても霧の中にマネキン人形が佇んでいるようなものである。
「んだがらよ 浅草さ んぐべ ストリップの本場だじぇ」
「おおっ!!」
雄叫びに近い声を上げ我々は浅草へ向かった。
入場料を払い薄暗い劇場に入ると、そこは別世界である。
スポットライトに映し出された踊り子が、音楽に合わせ腰をくねらせ欲情をそそり、そして、衣装を脱いでいく。
我々は、あまりの感動に口を半開きにし、声にならない呻き声をもらしていた。
ステージの合間にはコントなども行われ、喝采を浴びている。
無名時代のコント55やツービートなどもこの劇場で活躍していたようである。
一体どれくらい時間が経ったのだろうか、入れ替えなしのステージも最終となり、追われるように席を立った。
「いや~ すげぃがったな~」
「んだな おれなの 涙でできたっけは」
「腰 ふらふらするっす」
我々は期待以上の満足と”未知との遭遇”に充実感を覚え、文化の香りに浸りながら帰路に就いた。
むろん、翌日から見る女性の夢は、霧が晴れた秋晴れのように鮮明な画像になることを期待して....
「まもなく終点東京に到着します どなた様も....」到着を告げる車内放送で目が覚めた。
どうやら夢を見ていたようである。
それにしても、文化の日にふさわしい思い出が夢の中で蘇ったものである。
久しぶりに、浅草へ行ってみようと思った。
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