第90話 おじちゃん

会社への通勤距離は片道50Kmである。

都市部なら電車通勤が一般的な距離だろうが、交通網の貧弱な山形では大半の人は自家用車通勤である。

夏場なら通勤時間は1時間、積雪のある冬季は更に時間が掛るため、早朝に家を出て帰宅時間も遅くなる。残業のある時などは深夜帰宅も珍しくない。


普段でも家に帰る時間は20時を過ぎており、人生の2/3近くの時間を会社+通勤時間で消費している計算になる。

こんな状態が30年以上も続いているのだから、今更どうにかしようと思っているわけではないが、なんだかとても無駄な事をしているようにも思えるときがある。


娘がまだ小さかった頃も、朝早く家を出て子供が寝てから帰宅する生活が続いていた。

子供の顔は寝顔しか思い浮かばなかった。

たまの休みには私の方が寝ているため、起きている娘に接する時間がほとんどなかったためだろう。

その頃、やっと話せるようになった娘が、妻にこう言ったそうである。

「あの おじちゃん また来ったね」

「あの人 おじちゃんなの んねがらな お父さんだがらね」と言って叱ったそうだが、それを聞いてとてもやり切れない気持ちになったものである。

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