第92話 集中砲火

大手石油化学メーカーから、打ち合わせのため二人の来客があった。

二人とも東京生まれの東京育ちで、地方での生活経験は皆無とのことである。


休憩時間にコーヒーを飲みながら、周囲の人達の話に耳を傾けていたので聞いてみた。

「なに しゃべたっけが わがっか?」

わざと早口で質問したが、質問されていることすら分からない様子。

「何を話していたか 分かりましたか?」やむを得ず標準語で質問する。

「全然分からないですね 何だか外国に来たみたいな気がしてくるよ」


外国とは大げさなと思ったが、以前津軽に出張した際、地元の人同士の会話を聞いたことが有ったが、全く理解できなかった。

私には、津軽弁の発音とイントネーションはフランス語のようなイメージであった。


打ち合わせも一段落し、会食をすることになった。

同席した部下達も最初は気を使い、標準語に近い言葉を使っていたのだが、酒の量が増えるにつれて山形弁になってしまった。

「ほだえ なまたら おぎゃくさんさ わがらねべず」

「おまえのほうが なまてんだで ひょーずんごで しゃべろず!」などと、お互いが訛りあっている始末。

東京生まれの二人は山形弁の集中砲火を浴び、会食の後半は、やはり外国に来たような気分になったことだろう。

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