第45話 犬のウンコ

下痢をした、典型的な下痢である。

海外勤務経験者の大多数の人達が経験する下痢である。

固形物など皆無な状態で、いわゆる理想的な下痢とはこのような状態を言うのだろう。

しかし、下痢の状態を客観的に観察している場合ではない。

これはやはり病院に行くしかない。

日本語対応可能な病院は...「コロンビア・アジア・クリニック24時間日本語電話受付」か...


「もすもす」

「はいコロンビア・アジア・クリニック日本語受付です」

「あの~ 下痢して止まらねんだっす...」

「そうですか いつからですか?」

「きんなの ゆうがだ からだっす」

「ホーチミンに来てどれくらい経ちましたか?」

「ん~と 半年くらいだっす」

「分かりました それでは直ぐ来てください」

急いで支度をしてタクシーに乗り込んだ。

5分ほどで病院に到着する。

「あの~ さっき電話したんだげんと...」

「はいはい では直ぐ診察しますからこちらへどうぞ」

診察室に案内され看護婦さんから問診を受ける。

日本人の看護婦さんである。

ネームカードにYAMAKAWAと書いてある。

(山川さんか...)

「山川さんは ホーチミンさ来て 何年になるんだっす?」

「1年ですけど...それより質問に答えてください!」

「はい...」

色々質問を受けているうちに、ドクターが入ってきた。

おぉぉぉ 金髪美形の女医ではないか!!

「あのぉ この人医者なんだがっす?」

「このひとはフランス人の女医さんです」

山川看護婦は感情を抑えるように答えてくれた。

「○£*□×∞♂♀?」

フランス語で質問されても全く分からない。

「何か薬は飲みましたかと聞いていますが」

「あ はい 正露丸を...」

「ベトナムの下痢に正露丸は効きませんね」


腹を押したり熱を計ったりして、一応診察は終わった。

また、何やらフランス語で山川看護婦に指示をしている。

「抗生物質と念のため駆虫剤を差し上げますから」

「えっ? 駆虫剤って虫下しなんだが?」

「ええ 長期滞在者は寄生虫の可能性もありますから」

「ベトナムには虫いるんだがっす?」

「そうですね ほとんどが有機農業ですから比較的多いですね 野菜などは良く洗って食べてくださいね」

日本では安全な有機農業などと言っているが、本場ベトナムの有機農業野菜は虫に注意と言うことなのか。


そう言えば小学校の頃、便検査なるものが実施されていた。

指定された日の朝に採取し、マッチ箱に入れ学校に持っていくのである。

ところが、その日に限って出ないものなのである。

持っていかなければ先生に叱られる。

子供心に悩んだ末、当時飼っていたスピッツの便を入れて持っていったのである。

一時しのぎにはなったが、その後、保健室の先生からこっぴどく叱られてしまった。

「あなたは犬のウンコをするんですか?!!」

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