12月は「Long Night Moon.」
本当に寒い冬がやって来た。僕の住む街は殊更に寒さが厳しい。これから4か月間は寒さが続くのだと思うと、ちょっと暗澹たる気持ちになるが、まぁ渚がいれば楽しいだろう。約束の火曜日はすぐにやって来たように思うが、前日までは一日千秋の思いだった。待ち合わせ場所の「改札前」は北風がモロに抜けるので、渚を待たせるわけにはいかない。渚も寒ければベックスに入って待つだろうとは思うが。待ち合わせ時間の15分前に着いた。スマホを取り出そうかと思った瞬間にメール着信音が鳴った。
「ベックスにいます^^」
そうだろうなと思いながらベックスに向かう。
僕の顔を見ると、また千切れんばかりにしっぽを振るように笑顔になった。僕は軽く手を挙げて、レジでホットチョコレートを注文した。寒い時期はコレか、コンポタに限る。トレイを使うまでも無いので、カップを持って渚の許へ歩く。チラっと見えるダークブラウンのダッフルコート。流石にこの寒さでは「スカジャン」では頑張れないのだろう。白いウールのマフラーがダッフルコートの上に畳んで置かれていた。
「洋ちゃんっ!」
「待たせちゃった?」
「へーきへーき。まだ10分前だよ」
「うーん・・・」
「なぁに?何か変?」
「渚、太った?」
この瞬間、渚はものすごい勢いで両手を頬にあてて「マジ?」と言った。
「ちょっとふっくらしてないか?」
「やだー、体重は変わってないのに」
「そっかー?結構あちこち変わった気がするぞー」
「どこ?どこ?」
僕は渚の太ももを凝視してあげた。ジーンズが妙にぱっつんぱっつんになってきたのは10月の終わり頃からだった。
「どこ見てんの、えっちっ!」
「今日はどうする?飯はどこで食おうか?」
「いいから、いつもの部屋に行こうよ」
「いきなりか」
「寒いのに出歩く気はありません」
「飯は?」
「あそこのメニューに無いの?」
「美味いモノ、食いたいだろ。ああ言うところは大抵冷凍食品だぞ」
「そう言えばそうか。じゃ、どこかで買って行こう」
この娘っ子はホテル直行と言う計画を変える気は無いようだ。欲望にストレートな子は嫌いじゃない。しかし僕は空腹だ。どこかで弁当を買うにしても心当たりがない。ホカホカ弁当の店ならいくつか知ってるが、渚と一緒に食べる「海苔弁当」はどんな味だろうか?
「あ、地下に行こう、地下」
「地下?ああ、このビルの地下のこと?」
「うん。デパ地下とかあるじゃん。駅ビルにもあるんだよ」
「地下の食品売り場?」
「そうじゃなくてさ、地下2階は食品だけど、地下1階は食べ物屋さん」
「何か探すか」
「うん。お弁当も良さそうなのがあるよ、きっと」
「その前に」
「なに?」
「俺は腹が減ってるんで、ここで軽く食べていいか?」
「あらら。サンドイッチとかカレーならあるけど、いい?」
「買ってくる」
僕は渚を席に残してレジカウンターに向かった。割とボリュームのあるサンドイッチがあったので、ソレを注文してテーブルに戻った。
「食欲あるねー」
「ん?渚も半分食いなよ」
「食べていいの?」
「今食べておけばちょうどいいんじゃない?」
しばし間をおいて、「スケベ・・・」と罵られた。渚だって空腹とか満腹では楽しめないだろうと言う僕の配慮が通じたようだ。しっかり半分食われた。
駅ビルの地下まで降りるだけなので、コートは羽織らずに手に持ってエレベーターを待つ。この時点でもう寒い。エレベーターホールは外気がマトモに入ってくる。渚は「うー寒っ!」と言いながら腕にしがみついてくる。
地下に降りて何軒か店を巡る。どうにもピンと来ない。世の中の奥様達はこの場所で色々と楽しく悩みながら、弁当や総菜を買うのだろう。渚も興味無さそうに通路を歩く。こんな時の渚は非常にクールだ。今は僕の前を歩くようになったので見えないが、本当に黙っていると怖いくらいに美しく「冷たい女」に見える。本人曰く「私は悪い子」らしいが、そのイメージで頑張って欲しい。そうじゃないと知らない男の人に攫われそうだ。顔もスタイルも美しいのだが、その「立ち居振る舞い」も美しい、と言うか隙が無い。僕はこの歳になってやっと「レディーファースト」の精神が根付いたが、実際、レディーファーストなんぞをやると、戸惑う女の子ばかりだった。ドアくらい開けて、先に女性を通すのが普通だと思うのだが・・・
結局、レストラン街にあるとんかつ弁当のテイクアウトにするか、適当にここで買うか悩んだ挙句、「面倒臭い」から、松花堂弁当を買うことにした。おかずが多いのでご飯を別に購入した。渚もおかずだが、ここでは考えない。全てが「ちんまりと収まった弁当」は滅多に買わないと言うか興味が無かった。そんな弁当が2千円近いとか、世も末だと思った。弁当を買えば用は無いと、渚はサッサとエレベーターホールに向かう。姫様は我がままなのだ。
(あとでしっかり教育してやろう)
そう思いながら、弁当の入った袋を持って渚の後を追う。地上に出れば物凄く寒い。僕は渚の大きなバッグを肩から提げて、ダッフルコートの袖を渚の腕に通した。もう一度言う、「姫様は我がまま」なのだ。
「やだー、本当に洋ちゃんはワルだー」
「なんでだよっ!」
「こんなことされたら、女の子はイチコロだよー」
「21歳は女の”子”じゃないけどな」
「どうしてそんなことを」
「若い女性と呼ぶべきだろうさ」
「私、若い?」
「若くて綺麗で、優しいかな」
「ばーか」
デレた。
いつもの部屋に入ると、また背伸びしてくる。「キスをしなさい」と言う命令だ。遠慮なくキスをして尻を揉む。「抱き寄せる」なんて、持って回った言い方はしない。尻を揉むのだ。あとでおっぱいも揉む。今日は「新たな課題」がある。正常位は最初の頃のお約束だっただけなので、前回からバックで責めてみた。あっさりと渚は堕ちた。今日もバックから責めて、姫様を撃墜してから上になって貰おうと考えていた。男の99%はこんなことを考えている。いや、考えない男は種族保存のためにだけ、女性とまぐわっていればいいんじゃないかな?僕は「健全な男」なので、エロスにはどん欲だ。この点で渚とは一致を見た。いくら渚がATフィールドの使い手でも、懐に潜り込んでコアを揉み揉みすれば大丈夫だ。
荷物を置いて渚が逃げる。シャワーを浴びたいそうだ。当然だが許可出来ない。僕は渚の「匂い」が大好きなのだから当たり前である。押し倒して匂いを嗅ぐのが男の務めである。押し倒してしまえば抵抗しないのが渚の可愛いところだ。
「もうっ!」と言いながらも、僕を押し返したりしない。しかし、行為に及ぶのはシャワーの後だと決まっている。お互いに「臭い場所」があるので、レディース&ジェントルマンとしてのマナーである。今日は「一緒に入ろー」と言われなかったので、椅子に座って、太ももに両手を置いて大人しくしていた。特にやることは無いし。部屋は暖かいし、もうお互いの身体を知っているので、渚は「エッチ巻き」で出てきた。今度は僕がシャワーを浴びる番だ。家を出る直前にシャワーを浴びてはいるが、一応はマナーなので念入りに洗う。バスルームを出て部屋に入ると、渚がベッドの上で座っていた。この際だから「素肌の匂い」も嗅いでおこう。渚は非常に薄くだが香水を使っていることが多い。目の前に座って匂いを嗅いだ。もう慣れっこになっているのか、渚は抵抗しない。シャワーを浴びる前は若干嫌がるが。
「匂い嗅いでどうするの?」
「渚の匂いが好きなんだ」
「今はどんな匂い?」
「んー?」
僕はいつもより念入りに匂いを嗅いだ。気分は優秀な警察犬である。
「ナフタリンの匂いかなぁ・・・」
「ソレ、おばあちゃんの匂いじゃないっ!」
「ほぼ匂いが無いけど・・・」
「けど?」
「エッチするといい匂いになるよね」
「匂いを嗅ぎながらしないでっ!」
そのまま雪崩れ込むように始まった。僕は「無駄な努力はしない主義」なので、正常位から体位を変える時は「四つん這いになって」と囁くことにしている。また「駄目っ!逝ってるからっ!逝ったからっ!」と姫様が抗議するので、遠慮なく責めて撃墜した。いったん正常位に戻る。渚は安心したようだが、コレは訓練ではない。繰り返す、コレは訓練ではないっ!と言うことで、挿入したまま横に転がって渚を上にした。身長145㎝はこういう時に便利だ。簡単に持ち上がる。
「うっ・・・」
渚は固まっている。
「ねぇ、コレは恥ずかしいかな・・・?」
実は渚は経験が少ないことを僕は知っている。反応を見ればわかる。騎乗位はあまりしたことが無いようだ。
「暗くしない?」
「駄目。渚を見るのも好きだから」
「やだもう・・・」
ひとしきり腰を動かして、渚は僕のよるのひんでんぶるぐ号から降りてしまった。
「上になって動いてると猿みたいで嫌なのっ!」
そうですか、僕は毎回腰を使ってますが、猿ですか?
「男の人はいいのっ!」
でも僕は気付いていた。渚が自分で奥に当たるようにしていたことを。
ぐりぐりすると気持ちいい場所に当てて。
この娘っ子は今後は上に乗るのも辞さないだろう。そして、想像よりも眺めが良かった。身長145㎝に17㎝が刺さっていると言う「串刺し感」だけでどんぶり飯3杯はイケる。
寒い時期のデートは毎回こうなのだろうか?僕は世界で一番の幸せ者になれたようだ。デート代もかからないし、渚の肢体を見るだけで最高の時間になるし。若い頃よりはお金はかけてるが、ホテル代に延長料金を加えても1万円だ。暖かくなれば、渚を海に連れて行きたいし、色々と行きたい場所もあった。「思い付き」で行けるような場所では無いので、その日が来たら準備を始めよう。
二の腕のタトゥーが妖艶で困る。考え事をしている時の渚はやはり怖さがある。これほどタトゥーが似合う女の子さんも少ないだろう。事前に「渚のキャラクター」を知っていたら絶対に近づきたくないと思っただろう。僕はそんなことを考えながら、渚のおっぱいを揉んだりしていた。渚に言わせれば、「洋ちゃんてワルだし、ボーソー族だったし」と言うことらしいが、僕は暴走をしたことはない。ちょっと峠道で遊んでただけだ。仲間が色々とやらかしただけで、尻拭いをしていただけだ。
「あ、そうだ」
「なに?」
「洋ちゃんは今でもバイクをいじれる?」
「今のバイクは無理だよ、色々と面倒になったし」
「古いバイクなんだけどね?」
「バイクの名前は?」
「ホンダのしーびー・・・赤いヤツ」
「赤いヤツは3倍速いか、パイロットがツンデレ」
「えーと、あ、写真ある、写真」
渚がスマホで撮った写真を見せてくれた。HONDA CBR400Fだった。ただ、横に転がってるのは「エンデュランス」の外装だった。早い話が「改造中」のような感じだ。
「このバイクさぁ、動かないんだって」
「ふーん、勿体ない話だな」
「洋ちゃん、直して」
「バイク屋さんに持っていけばいいじゃないか」
「コレ、レンタル倉庫に入れてあって、バイク屋さんまで持って行けないって」
「引き揚げだってしてくれるだろうに・・・」
「お金無いって」
「誰よ、こんな古いバイクを抱えてる男って?」
「女の子よ。思い出のバイクなんだって。直してあげて」
「昔死んだ彼氏のバイクとか?」
「ん?本人が昔乗ってたバイクで、解体屋さんで見つけて思わず買ったって言ってた」
「なんだその跳ねっ返り娘は」(笑)
「なるべく安く直してあげて」
「見てみないと分からないなぁ。本人が乗ってたって言うなら、そこそこいじれるんじゃないか?」
「昔の彼氏が全部やってくれてたって」
「寒いうちに見せてもらえるなら・・・」
「寒い方がいいの?」
「この手のバイクは寒い方が調子がいいんだ。冬の方が”空気が濃い”から」
「空気?」
「説明するのも面倒だけど、暖かい空気は密度が薄いって意味は分かる?」
「高卒を舐めるな」
「俺も高卒だ」
「ふーん、そんな微妙なことで変わるんだ・・・」
「俺の主治医がな?」
「うん」
「古狸みたいなデブなんだが、ユーノスロードスターに乗ってる」
「やだ、暑苦しそう」
「だろ?あの小さな車体に大きなタヌキが乗ってると思え」
「車、大丈夫なの?」
「そう、性能ギリギリだから、冬場の調子が良いと言うことに気づいたそうだ」
「へぇ・・・」
「2月か3月でいいなら一応見てみるけど?」
「分かった。そう言っておく」
「期待するなとも言っておいて」
渚がウィッグを外すのは、その日のセックスが完全に終わった後。
「洋ちゃんだって困るでしょ?」
と言うことらしいが、僕は気にしていない。それでも渚はいい意味で「女の子さん」なのだ。
3回目が終わったあと、渚は翌朝までぐっすりと眠っていた。
いつもとは逆で、お昼の12:00に駅の改札でバイバイした。次回のデートの予定はまだ無い。
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