第69話 夏空の屋上にて

 あの後、警察に事情説明をしてストーカーのことを粗方話してから、お互い皆それぞれ帰宅した。そして、気持ちを落ち着かせるための穏やかな日曜日を過ごした。

 ……その後の翌日の月曜日、俺たちはいつも通り学校に来ていた。

 俺は大口を開け、堪え切れないあくびの息を吐いた。

 わずかに目から涙が出てくるのを千種は見逃さなかった。


「ふぁああ……」

「すっげぇ眠そうだな」

「……少なくとも、日曜日は買い物で忙しかったからな」


 昼休みが始まって、千種に声をかけられた。不由美が不安がらないように色々と構ってやったり、今週のご飯と不由美が平日にいるとき用のおかずも買ったりとしていたのだ。慣れていることとはいえ少しくらいは疲れたりする、うん。

 あの後、ストーカーがどうなったかは掴めていないが知らない方が身のためという奴なのかもしれない。なんとなく、予想では水野父……海音さんが何かしらの処理をしてくれているはずだ。

 察しがいい方である自分でも、なんとなくは気づけてしまう話だ。


「それよりさー、今日は屋上行かねぇ?」

「屋上に?」

「ああ、今日はそんな気分なんだわ」

「別にいいけど、変なことたくらんでないだろうな」

「たまにはいいじゃねえかよぉ、ダメかぁ?」


 千種が何か考えている気がしてならない俺の中の親友センサーが反応している。

 こういう時に何かしらの悪戯が待っている展開がしてならない。だが、お腹もすいているから、下手な詮索をしている余裕もない。


「……わかったよ」

「やりぃ、んじゃ行こうぜっ」


 俺は鞄から弁当を取り出すと千種にぐいぐいと背中を押される。

 そのまま、千種と一緒に屋上へと階段を上がっていく中、屋上の扉を開けると涼やかな空気が頬に触れる。

 眩しい日差しが差すのに思わず一瞬、目元に手で覆いながら彼女たちの声が聞こえてくる。


「あ、青崎君いらっしゃーい! みんな待ってたよー!」

「あんまり遅かったら食べようかなーって思ってたところだぞー青崎&高砂―」

「い、生雲先輩! だ、ダメですよ、そんなの! みんなで食べるって話だったじゃないですか!」

「……鈴村さん、生雲先輩なりの冗談だと思いますよ」

「そうそう、麗夏ちゃんは真面目だねー」

「……どういう状況だ? これは」


 屋上の真ん中で瑠璃川先輩が最初に俺に声をかけてくる。

 生雲が続くように軽い冗談を言いながら、鈴村があたはふたしながらも生雲を注意する。いや、生雲はまだわかる。

 鈴村は、前に一度お昼を一緒にしたのでなんとなくわかる。

 水野が冷静に鈴村に生雲のフォローをしながら、瑠璃川先輩が楽しげに笑うのも、わからなくはない。ただ、ちょっと意外なのが全員の下に大き目なスカイブルーの風呂敷がみんなで囲んで座っている。

 まるで、こうなるために準備していたと言いたげだった。

 波留人はその場で心の中で頭を抱える。


 ――なぜ、通り名持ちTOP4が揃っている? 


 いや、重要なのはそこじゃないが。

 俺は額に手を当てて後ろにいる千種にワントーン低く聞く。


「……千種?」

「いや、なんか土曜日後半あんな感じだったろ? あの後日曜日にみんなと話して、今日はとりあえずみんなで屋上で食べようって話になったってわけだ。いいだろ?」

「いいだろって……どういう流れだよ」


 お前のコミュ力にはいつも驚かされるよ俺は……っ。

 千種はまた、ぐい、と俺の背中を強く押した。


「ほーら! とにかく食おうぜ! 腹減ったわ」

「……そうだな」


 俺は千種に押され、屋上の中に一歩踏み出す。

 みんなは笑顔で俺たちを出迎えてくれた。

 みんながみんな、色々な弁当箱を並べている。水野はシンプルな青色を。鈴村は花柄の桃色を。生雲は派手な青色を、瑠璃川先輩は大人しめの黄色を。

 俺はもちろん、藍色なシンプルな弁当箱だった。


「あ、あの青崎先―――」

「青崎先輩、私の隣空いてますよ」

「ん? あ、ああ」


 水野に誘われて、彼女の元へと歩いていく。

 最終的に、水野と瑠璃川の間に座る形になった。

 鈴村が、あぁ、と声を漏らしているのを見て隣の生雲がにやけ顔をしている。

 そのことに気づいてない波留人はとりあえず、弁当箱を風呂敷の上に置いた。


「青崎先輩、今日からはみんなでお昼休みに食べませんか?」

「……みんなが嫌じゃなければ、俺はいいが」

「じゃ、じゃあ、今日はみんなのお弁当のトレードとかしませんか?」

「お、いいなぁそれ! 青春っぽいじゃん!」

「千種はフルーツサンドとイチゴ牛乳だけだから無理だろ」

「そういう時は親友のおかずを利用させてもらいまーす」

「……お前な」

「高砂、ださー」

「るっせーよバーカ」

「ふふ、仲良しですね」


 千種に誘われて俺たちは今日という昼食を食べ始める。

 この賑やかな昼を過ごすためにも俺は昨日の時に買っておいたサイダーのキャップを開けてプシュッと音を鳴らせて、サイダーの爽やかな清涼感が喉を通っていくのを感じていた。

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