悪人でした



暗い海の底へと身を投げた。

僕は昔善人でした。

良い子になるために頑張っていました。

いつも、何が悪いかを考えていました。


そうして先生に聞きました。

これは悪い事?

いいえ、それは悪い事ではありません。

こうして僕はいつでも善人でした。


暗い泡を吐き出す。

もう息が続かない。

人魚が、僕を掠めて問う。


人間って本当に飽きないのね。皆死んでしまうのにまた海に潜るんだもの。ああ良かったら海の底まで連れて行ってあげましょうか。


僕はゆっくりと首を横に振った。

これはどうしても僕ひとりでやらなければいけない事だ。


やっぱり同じね。詰まらないわ。

人魚はさっさと海の底へと帰って行った。

人魚は僕の幻覚かも知れない。

あの人魚の顔は、あの子に似ていた。


あの子は、悪人になった。

悪い事をしていた。

けれども僕がそれを注意すると、じゃあどうしたら良かったのと、泣いた。


そんな事は僕には分からないよ。だって僕は、悪い事は分かるけれど、正しい事は分からないもの。


それじゃあ貴方も悪人じゃない。嘘つき。信じていたのに。貴方は良い子じゃなかったの?


この時僕は、僕がもう悪人だった事を知った。

僕は悪人でした。

初めからずっとずっと。


周りはもう暗闇になって、何も見えない。

息は全て吐き出した。

僕は悪人が嫌いでした。

悪人は世界からいない方がましだとばかり考えていました。


そうして僕はいつも、自分が悪い事をしていないかとばかり考えていました。

先生はいつでも、大丈夫だと言いました。

けれどもあの時、僕はとっくの昔に悪人だった事に気付いたのです。


僕は悪人でした。

僕の大嫌いな。

そうするとそのうち善人も嫌いになりました。何より僕が嫌いになりました。僕はいない方がましだとばかり考えました。


そうして海の底へと身を投げました。

これで世界はましになります。


だってそうです。

善人は、何が正しいのかを常に考えるそうです。

僕はその逆でした。

善人は天にいきます。それならば悪人は地の底へいきます。


僕は地の底へ向かいます。

僕の背が海の底につく時、僕の息は枯れているでしょう。

僕は悪人でした。

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