第41話 元七帝との雑談1
突然現れた俺に相当びっくりしたのか、バタバタと飛び跳ねた後尻餅をついた。
「どうしたの? 何か僕に用事?」
「いや、アンラと2人で出かけていたからホムラとミライに見守り頼んだんだが、疲れ切ったのか3人で寝てたんだ。だから、少しだけ前線の様子を見に来ただけだ」
「なんだ、そういうことだったんだ。僕は全然元気だよ。やっと今日で終わるからね! 明日から一週間のんびりと買い物でもしたいな!」
セイフは背伸びをしながらそう言った。
アーリア王国がシャイタンに統合されてから、隣国とも信じられないくらい平和で良好な関係になった。
それでも緊急に対応できるように、俺を含め七帝だったメンバーを中心に境界付近を見張っているわけだが、退屈するくらい何もないため、違う意味で身体的につらいのだ。
「セイフは相変わらずのんびり屋だな」
「そうだよ、僕はのんびり屋さ。ゆっくりと自分のペースで物事を進めていきたいんだよ。その方が僕には1番合ってる。ルーカスだってそう思うでしょ?」
「ああ、全くその通りだ。俺が七帝になって初めて会ってからずっとそうだもんな」
「そうそう。僕はずっとそのままさ。あはは……!」
そう、セイフはいつもこんな感じで、のんびりでいつもニコニコしながら話す。
異世界から転生したものの、コウキやホムラのような全てにおいて高い能力を授からなかった。
ただ、剣術だけは
そのせいか、訓練は欠かさずに取り組んでいる。
そして、最大の特徴は忍耐力。
ずっと下向きに努力してきたこともあってか、相手が苛つくほどに諦めが悪い男だ。
何度かセイフと剣を交えたことがあるが、やられてもやられてもしつこいぐらいに立ち上がる。
『何でそこまで立ち上がるんだ?』
セイフとの勝負が終わった後、俺は手を差し伸べながら聞いた。
すると、セイフは笑いながらこう答えた。
『だって、100%のうち99%やられたとしても、残りの1%は勝てるかもしれないじゃん? みんなが絶対に無理だと思ったとしても馬鹿にされても、僕は1%の方に賭けるね。それで勝てたらかっこいいでしょ?』
『――――!』
俺は心打たれた。
どんなに能力が弱かろうが世間から馬鹿にされようが、そんなの関係なく挑み続けるセイフの姿に感動してしまった。
俺だってコウキやホムラのような高い能力を持っているわけではない。
剣術だってセイフと比べたら劣る。
ただ、俺は運良く光属性の魔法を授かったことで聖帝になることが出来たわけだが、セイフの場合は魔法をあまり使わず、ほぼ剣術だけで戦っている。
「本当に……セイフは凄いな」
「えっ? きゅ、急にどうしたの!?」
「俺が聖帝だった頃に俺に言ったじゃないか。『99%やられても1%は勝てるかもしれない』ってやつ。あれは俺の中で一番影響を受けた言葉だな」
「そんなこと……あくまで僕が心の中で決めていることで……」
「それでもだ。セイフのあの言葉のおかげで、目の前に壁があっても何とか乗り越えられそうだって思える」
「そ、そうなんだ……。あ、ありがとう……」
セイフは顔を少し赤くしながらそう言った。
才能があるわけでもなかったせいもあって、なかなか認められなかったセイフは褒められることに弱い。
こうやって少しでも褒めれられるとすぐに顔を赤くするのだ。
「ははは……。じゃあ、俺は他の様子を見てくる」
「うん! ありがとう、わざわざここまで来てくれて」
「俺がそうしたかっただけだから気にするな。じゃあなセイフ、また会おう!『ワラムカリス』!」
「じゃあねルーカス!」
手を振って見送ってくれるセイフに俺は返してあげた。
そして、俺は次の人物のもとへ向かった。
俺を含め、七帝だった者たちは東西南北それぞれ1人ずつ交代で配置されているが、アーリア王国がシャイタンに吸収されたことで、防衛の距離も膨大になった。
そのため、配置場所の間はかなり離れている。
だが、俺の転移魔法は一瞬でその場所まで行けるのだからとても楽だ。
「誰かと思ったら、ルーカスじゃないっすか。不法侵入を平気でやるなんてルーカスは悪い人っすね」
次は土帝の称号を授かっていた、アキト・ツチダだ。
〜っすねが口癖で、冗談をよく言う面白いやつだ。
称号の名の通り、土属性の魔法の
「いや、別にお前の家ではないからな……? 邪魔してしまったってことか? それなら出直すが……」
「冗談っすよ。すぐにそうやって信じてたら、すぐ変なやつに騙されるっすよ。女とか、女とか、女とか……」
――――よし、こいつぶん殴ろう。
「いやいや、一度もないし、俺にはアンラがいるから絶対にないからな!」
「冗談ですって! 本気で殴りかからないで!」
俺は拳を作って殴る――――フリをした。
しかし、アキトは本気で殴ってくると思い込んだようで、手を早く振って慌てて否定する。
セイフの場合は戦いの中で諦めの悪さに苛立つが、こいつの場合は冗談が多すぎて普通に苛立つ。
七帝だった頃は、アキトの冗談がきっかけで喧嘩が勃発することが多かった。
これは今でも鮮明に覚えているのだが、アキトはよりによってホムラ相手に馬鹿にするような冗談を言ってしまったことがある。
それを聞いたホムラは真にそれを受け止めてしまったため、怒り狂ったホムラは火属性の魔法を身に纏った瞬間、アキトに本気で殴りかかってきたのだ。
幸い俺とティフィー、彼女の付き添いで行動を共にしていたカラーがいたのでホムラを抑えることは出来たが、いなかったと思うと……かなり恐ろしいことになっていたに違いない。
「ったく、アキトはいつになってもその癖は治らないな。相手が俺で良かったな」
「うう……。本当に申し訳ないっす……」
本人は自覚していて、悪いとは思っているのは確かだ。
だが、何回言っても治らないため、せめて冗談を言うなら俺とミライだけにしておけと忠告している。
ホムラは完全にアウトだし、セイフは本気で落ち込んで長い間引き籠もってしまう。
だからといって、ティフィーとカラーに言ったら静かに殺されることは確実だ。
ミライの場合は冗談を言われたら勿論怒るが、何故か面白いので認めることにしている。
「調子はどうだ?」
「調子っすか? そりゃあバリバリ元気っすよ!」
「そうか、なら良かった」
アキトは立ち上がって太い腕を曲げ、大きな力こぶを見せる。
アキトは身長がティフィーに次いで2番目に低い。
だがその代わり、体付きは立派だ。
肩幅が筋肉で拡張されて広いし、足も太い。
組み合いをしたら負け無しなのではないだろうかと思ってしまうほどだ。
「今日は何か御用っすか?」
「ちょっとだけ様子を見に来た」
「――――それだけっすか?」
「ああ、それだけだ」
「じゃあ何しに来たんすか……」
アキトは俺をジト目で見た。
「アンラとちょっと出かけて、その時にホムラとミライにサエイダの面倒を見てもらっててな。あいつら、よっぽど疲れたのかサエイダと一緒に寝てしまっていたから、そっとしておいて、ちょっと前線の様子を見に行こうと思ってな」
「そういうことっすか。あの2人もそこまで考えるようになったなんて……。子どもみたいな2人がねえ……」
「本当に変わったよな、あの2人は……」
「自分が一番あの2人の近くで見てきたから分かるんすよね」
アキトは下に見える、一台の馬車を見つめながらそう言った。
目を見ると、育った子どもが旅立つところを見守る親のようだった。
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