第34話 承諾
3人でお茶を飲みながら、俺がアーリア王国から追放されてシャイタンに連れられ、その後どういった経路を辿ったのか、母さんに全部話した。
「――――そうなの……。わたしが知らない間に……」
「本当はもっと早く知らせることが出来れば良かったんだけど、色々あってなかなか手紙を出せなかったんだ」
「まあ、話を聞いたら仕方ないわよ。でも、無事で良かったわ……」
母さんはホッとしたような表情で微笑んだ。
何だかこんな顔をされたのも本当に久し振りだった。
俺を
「ふう、終わったぞ」
「お帰りなさい。お茶入ってるわ」
「サンキュー」
父さんが仕事を終えて帰ってきた。
汗を手で拭うと、母さんの隣の椅子に座る。
そして目の前に置いてあった冷たいお茶をひと口飲むと、腕を机の上に置いて手を組んだ。
「さて、話を聞かせてもらおうか」
「――――父さん、母さん。俺……この子と結婚することになったんだ。まだ2人は話してなかったんだけど……実は彼女はシャイタン……魔物の国の首長、魔王なんだ」
「「はっ!?」えっ!?」
「あはは……。実はそうなんです。わたし、魔王なんですよ」
父さんと母さんは目を大きく見開いて固まってしまった。
アンラは微笑しながら自分を明かした。
「確かにアンラは魔王だ。でも、アンラは国民に対してすごい思いやりが強くて、誰にでも優しいんだ……」
「――――そうなのね……。わたしは反対なんてしないわ」
「えっ?」
「だって自分で決めたんでしょう? この人が一番良いって。わたしたちが止める権利なんてないわ」
「そうだ。俺たちが愛する息子の邪魔をさせるわけにはいかないし……さっきの2人を見てたら――――」
「や、やめてくれ父さん! それは言わないでくれ!」
俺は慌てて父さんの話を遮った。
絶対修行に使っていたあの森で、偶然遭遇した俺たちの行動をありのまま話されたら恥ずかしすぎて困る!
「何!? 何をしていたの!?」
「こいつら隠れてキスしてたんだよ」
「わああああああ!!! やめてくれええええ!!!」
父さんは母さんに話してしまった。
それを聞いた母さんはニヤリとすると、椅子から立ち上がって俺の肩に手を置いた。
「あらあら、随分とお熱いじゃないの?」
「――――っ!」
顔がものすごく熱い……。
隣のアンラも顔を真っ赤にしながら机を見つめている。
頭から煙が出て、今にも爆発してしまいそうになっていた。
「――――とにかく、わたしは反対しない。それはお父さんも同じ考えよ」
「ああ、俺はルーカスが幸せになってくれればそれで良い」
「父さん……」
父さんは腕を組み、微笑みながらそう言ってくれた。
自分の親だけど、なんだか俺は幸せな家庭に生まれてきて良かったなって思った。
俺が聖帝になることが決まって家を出る時も、父さんと母さんは涙を流してはいたけれど、家の前で手を振って見送ってくれた。
勿論それ以前から俺には色々役立つことを教えてくれたし、魔法に興味を持って文献を読み漁ってた時も、何一つ文句を言わずに一緒に文献を読んでくれたりとか……。
なんだかんだ、俺はこの2人がとても大好きなんだ……。
「なーに嬉しそうな顔してるのよ!」
「痛った! 急に強く叩かないでくれ!」
「ふふっ……」
母さんは俺の背中をバチンと強く叩いた。
母さんの平手打ちは結構強い。
ヒリヒリすると思ったら、結構赤くなって手形が付いている。
でもこれは母さんなりの、俺に対する愛情表現なのかなって思ったりもする。
「えっと……アンラさんでよろしかったかな?」
「あ、はいそうです!」
父さんは立ち上がると、アンラを見て彼女の名前を呼んだ。
再び腕を組むと眉間にしわを寄せる。
「本当にうちの息子で良かったのか? もっといい人がいると思ったが……。ルーカスはおっちょこちょいで弄られまくってる、ただのアホみたいなやつだぞ?」
「す、すごいいわれよう……」
おい父さん。
確かに弄られまくってるし、たまにおっちょこちょいなところはあるけどアホではないぞ?
ほら、アンラも少し困っているじゃないか……。
「わ、わたしは……! ルーカスは素敵な人だと思っています。確かにアホっぽいところはあるかもしれないけど……」
「おいアンラ!?」
アンラもそれ言っちゃうのか!?
なんか俺悲しくなってきた気がする……。
「でも、わたしはそんなルーカスを愛しているんです!」
「――――!?」
「ルーカスは普段1人で過ごしているわたしに、たくさんのことを教えてくれました。最初はただカッコいいという理由だけでルーカスに一目惚れしただけなんです。でも、一緒に過ごしていくうちに、ルーカスのことをどんどん知っていくうちにわたし思ったんです。この人は素晴らしい人だって。わたしの国は魔族、モンスターが中心の国です。でも、ルーカスはこう言ってくれました。『魔族やモンスターたちは人間に危害を加えようとしていないじゃないか』と……。そんなこと言われたら……カッコいいって思うしかないですよね!?」
「お、おう……」
アンラは眼を思いっきり輝かせながら父さんの顔にずいっと近づいた。
父さんは興奮気味のアンラに、顔を引きながら思わず肯定してしまったようだ。
「だから、わたしもルーカスを大事にしていきたいんです。さきほどの戦いの最中でも、どれだけ彼に助けられたことか……」
アンラはそう言いながら俺を見た。
何だか今日のアンラはより一層可愛く見える気がする。
何故かはわからないけど。
「――――ルーカス」
「ん?」
父さんは腕を組むと視線を落とし、床を見つめた。
まさかだけど、気が変わってやっぱダメみたいな展開とかならないよな?
「お前良い彼女さんを見つけたなあ!」
「えっ!? な、泣いてる!?」
父さんは目から大量の涙を流して、おんおん泣いていた。
俺の父さんってこんなになく人だったっけ?
今まで一度も泣いているところを見たことがなかっただけなのだろうか?
「ふふっ……まったく、涙脆い人なんだから……」
「父さんって涙脆い人だったの!?」
「知らなかったの? お父さんはね、昔からすぐ泣いてしまう人なのよ」
「し、知らなかった……」
そうだったのか……。
今になってそれを知ると、何だか申し訳ない気持ちになってしまう。
「ほらあなた、アンラさんが困ってるじゃない」
「だ、だってよお……」
「はいはい、嬉しい気持ちはわたしもわかるけど、今はただアンラさんを困らせるだけよ」
父さんは母さんにそう言われ、鼻をすすりながら目に溜まった涙を腕で拭った。
相当泣いていたようで、目がすでに赤くなっている。
「アンラさん、これからもルーカスをよろしく頼む。あんたがいれば、俺たちはなんにも心配いらなそうだ」
「はい!」
「でも、遠慮しなくても良いんだからね? こんな子だから、なに仕出かすかわからないし……。浮気しちゃうかも?」
「――――!?」
「か、母さん!? 勝手に俺の評価を下げないでくれよ!」
全く、途中までは良かったのに最後の発言はしてほしくなかった。
アンラが一瞬こっちを見た気がした。
ち、違うよアンラ。
それはただの母さんの悪ふざけだからな?
全部は信じちゃいけないからな?
「ふうーん……。ルーカスが浮気、ねえ……」
「アンラ違うんだって! そこだけは信じないでくれ!」
「もし、そんなことしたらどうなるかわかってる……よね?」
「はいわかっています……」
俺は何も悪くないはずなのに、いつも通りアンラに圧をかけられたせいで俺が悪いみたいになっている。
「と、とにかく! 俺たちは2人にそれを伝えたかったんだ」
「そうなのね。たまには顔覗かせてちょうだいよ?」
「ああ、俺たちはいつでもここで待っているからよ……」
「うん。じゃあまた……」
俺とアンラはシャイタンに帰ることにした。
もっとここにいたい気持ちはあったが、この後も色々やることがある。
アーリア王国が没落した今、すぐにでも動き出さないと他の国が我先にアーリア王国の領地を狙ってくる恐れがあるからだ。
「ルーカス!」
「――――!」
少し歩くと、突然後ろから俺の名前を呼ぶ声がした。
立ち止まって後ろを振り向くと、また昔のように玄関で手を振る母さんと、母さんの肩を抱いて俺を見守る父さんがいた。
何だかこの光景も懐かしい……。
何だか目頭が少しだけ熱くなった気がした。
「ありがとう父さん、母さん!」
俺は見送ってくれる2人に聞こえるように大声で言うと、またシャイタンに向かって歩き出した。
「――――もしかして泣きそうになってる?」
「ち、違うぞ?」
「涙脆いのはルーカスも一緒みたいね」
「き、気のせいじゃないかなあ?」
俺は横を向いてごまかしたがアンラには見抜かれているようで、くすくすと意地悪っぽく笑った。
やっぱりアンラには敵わないなと思っていると、急に手に柔らかい感触があった。
アンラは俺の手を握っていたのだ。
「ルーカス」
「ん?」
「わたしたちはこれから恋人から夫婦になるんだよね?」
「ま、まあそうだな……」
アンラの口から『夫婦』という言葉が出て、俺は何だか恥ずかしくなってしまった。
「これからもわたしを好きで居てくれる?」
「何を言ってるんだアンラ。それを望んでいるから俺はあの時アンラにちゃんと伝えたじゃないか。――――あ、でも今度こそちゃんとしたことを伝えないとな……。アンラ」
「――――! な、なに!?」
俺は立ち止まると、アンラの肩をガシッと掴んだ。
あまりに突然だったため、アンラは驚いた表情を見せた。
「前は婚約者としてアンラに伝えた。でも今日は違う。これから俺たちは夫婦として暮らしていく。だから言わせてくれ!」
「ル、ルーカス……」
「俺はアンラを愛している! これからもアンラの傍に居続ける! 絶対に守るって誓う! だから……俺と結婚して下さい!」
俺は思いのままにアンラに伝えた。
するとアンラは俺の頬に手を添えると、俺の唇に唇を重ねた。
「はい! わたしもルーカスを愛しています!」
俺たちはお互い抱きしめ、そしてまた唇を重ねた。
これからはずっと一緒に彼女と居られる……それだけで俺は嬉しかった。
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