第32話 実家へ向かって
城を出た俺たちはフィルたちの元へ。
彼らのもとに着いて目に見えたものは驚きの光景だった。
ティフィーら七帝と魔王軍隊長たちが、話をして盛り上がっていたのだ。
「お、お前らもう打ち解けたのか……?」
「おかえりなさい! 魔王様とルーカス!」
「なんか暇だから話しているうちに、話の馬が合っちゃってさ」
「お前の姿と掛け合わせるなんて面白いじゃないか」
「ち、違うからね!?」
少し戸惑っている俺に対して、魔王軍隊長の3人は楽しそうに俺に話してくる。
それを傍で聞く七帝らもこくこくと頷いた。
ま、まさかここまで仲が良くなるとは思ってもいなかった。
種族の違いでしばらくの間はギスギスした関係になるだろうと心構えていたが……。
彼らのこの様子なら、心配はいらないみたいだ。
「じゃあ、フィルたちは先に帰還しててくれ。俺とアンラはこの後どうしてもやらなきゃいけないことがあるんだ」
「やらなきゃいけないこと……? ああ、そういうことね」
ディージャジャはアンラの表情を見た途端理解したようだ。
さすがディージャジャ、察しが良い。
「さあ、早く帰るわよ!」
「えっ、ちょっと待ってくれよ!」
「いいから早く!」
ディージャジャはすくっと立ち上がると、部隊の方へと向かっていった。
残りの2人はわけがわからず、とりあえずそれぞれ自分の部隊へと戻っていった。
「さてと、残りはどうするんだ?」
俺はフィルたちから、ティフィーたちに視線を移した。
「わたしたちもルーカスが今いるところに行ってもいいかな?」
「俺も行ってもたいっす! 何だか気になってるんっすよね」
ティフィーは早くシャイタンを見てみたいのか、眼を輝かせている。
アキトもソワソワしている様子だ。
この2人は結構好奇心旺盛なところがあるからなあ……。
「他は?」
「わたしはティフィーちゃんについていくわ」
「まぁ、悪くはねぇな」
「ほ、ホムラがそう言うなら!」
「――――!?」
カラーも相変わらずだけど、この2人がなあ……。
今までこんな甘ったるい間柄の2人を見たことがなかったから……。
もしかしたら、そう遠くないうちに2人はくっつきそうだな。
今後の2人に期待しておこう。
「だってさアンラ。良いか?」
「う、あう……」
「アンラ、シャイタンの頂点のアンラが決めてもらわないと彼らをどうすればいいかわからないぞ?」
「い、良いよ……」
アンラは顔を真っ赤にしながらそう言った。
「だそうだ」
「じゃあルーカス。頑張ってね! あ、その前に……」
ティフィーは俺の元に駆け寄ってきた。
「帰ってきたら、ルーカスにお話があるんだ」
ティフィーは頬をほんのり赤くしながらそう小声で言った。
俺はなぜそんな顔をしてくるのかは理解できなかったが、まあ、ティフィーと一緒に話をするのは好きだから良いか。
「わかった。帰ったらティフィーのところへ行く」
「ほんと? やったあ! それともうひとつお願い」
「なんだ?」
「その時にアンラも連れてきてほしいの」
「えっ、なんでアンラが必要なんだ?」
「アンラの許可が必要になるから」
「――――? まあ、とりあえずはわかった。アンラも連れて行くよ」
「ありがとうルーカス!」
ティフィーはニコッと微笑むと、彼女たちはフィルたちのところへと向かっていった。
ティフィーは何をするつもりなんだろうか。
何かめんどくさそうなことにならなきゃ良いんだけど……。
「――――ねえルーカス」
「ん?」
「ほ、本当に行くの?」
「い、行くよ?」
アンラは震えた声で俺に話す。
正直、俺もかなり緊張気味だった。
なぜなら、これから俺たちは俺の両親のところへ行くのだから。
◇◇◇
俺とアンラは城の左側にある、森に囲まれた細い道を歩いている。
歩き始めてから、お互い一言も話していない。
アンラは恥ずかしさのあまりずっとあわあわしているし、それを見た俺も恥ずかしくなるの繰り返し。
な、なんとか話題を見つけないと……。
「な、なあアンラ」
アンラはゆっくりとこっちを見るが、顔を真っ赤にした途端すぐに反対側を向いてしまった。
ぐっ……可愛すぎる!
このままぶっ倒れてしまいたくなりそうだ。
「俺さ、実はここら辺に修行していたところがあるんだ。見てみるか?」
アンラは黙ったままこくこくと頷いた。
緊張をほぐすきっかけになってくれると良いんだけど。
俺が七帝になるために毎日のように通っていた場所。
そこは、今通っている道の右側に外れた草むらの向こう側にある。
もうしばらく使っていないから荒れ果ててしまっているかも知れない……。
俺は記憶を辿りながら、草が生い茂ったところを掻き分けながら進んだ。
「――――っと……。ここだ……」
目の前が急に開けた場所、そこが俺が昔修行をしていた思い出の場所だった。
アンラも草むらを抜け出し、俺の傍に来る。
「アンラ」
「ひゃい!?」
「――――!?」
アンラの名前を呼ぶと、彼女はいきなり裏返った大きな声で返事をした。
俺は思わずびくっと体が跳ねてしまった。
アンラを見ると……俺の顔を見たまま固まってしまっていた。
「とりあえずここで一休みしようか」
「えっ? ルーカスの実家に行かないの?」
「もちろん行くさ。でもずっとその感じじゃ俺の親の顔を見た瞬間に倒れそうな気がしたからさ。息抜きにここに立ち寄ったのさ」
俺は森が開けたこの場所に唯一残っている1本の木に歩み寄ると、その近くに大の字に寝転がった。
俺はアンラに手招きをした。
彼女は辺りを見渡しながらゆっくりと俺の横に歩み寄り、その場に寝転がる。
「ここさ、俺が七帝になる前の修行場所だったんだよ」
「そうなの?」
「ああ。この木に向かって木剣をひたすら打ち続けてたんだ。ほら、幹のところにいっぱい傷が付いているだろ?」
俺は木の幹を指した。
朝早くから日が暮れるまで、俺はひたすらこの木に向かって剣を振るい続けていた。
自分の両親は心配していたが、それでも俺は振って、振って……振り続けた。
七帝という自分の憧れに近づくために。
おかげで、木の幹には数え切れないほどの傷が付いている。
「本当だ……。でもルーカスって七帝の中では一番強かったんだよね? 最初から強かったわけじゃないの?」
「今はこれだけの実力を持てるようになったけど、最初は七帝になれる以前に試験に望めることすら絶望的に弱かったんだ」
「えっ? じゃあどうやって今のように強くなったの?」
アンラは寝返って俺の方を向く。
「――――勉強した」
「勉強?」
「そうだ。俺は元々剣を扱う才能もなかったし、魔法もそこまで良いとは言えなかったんだ。だから勉強しまくった。幸いにも、俺は光属性の魔法を使えたから、もっと色んな分野で使えないかなって思い始めたのが最初だったよ。でも光属性の魔法のことが記されたものなんてなかったから、他の属性の魔法について学ぶことにしたんだ。そしたら楽しくなっちゃってさ。読み解いていきながら光属性の魔法を使っているうちに、魔法がどういうふうな構造をしているのかが感覚的にわかるようになったんだ」
自分に全く適性のない属性の魔法について記された書物を、 俺は光属性の魔法で代用してやっていた。
周りからしたら、ただの馬鹿なやつに見えるかも知れない。
だけど、そんな馬鹿なことをやっていくうちに、俺は1つの答えに行き着いた。
『魔法は努力次第で、自分の適性以外の魔法も操れる』と。
これは一般的な考えでは到底不可能な話だ。
自分がこの魔法に適性があるとわかると、みんなはこの属性の魔法しか操れないと考える。
でも実は違って、それぞれの魔法の構造を知れば、案外簡単に色んな属性の魔法を自ら操れるものだった。
「あ、だからルーカスがその姿になってしまっても簡単に自分のものにしてしまったんだね」
「正直あまり簡単なものじゃなかった。闇属性の魔法って自分の適性の魔法とは真逆だから感覚を掴めるのに少し時間がかかったけど……」
俺は自分の手を見つめた。
『カラヒア』によって侵食されているせいで、俺の手は半分黒くなっている。
今はまだこの状態を戻す方法がわかっていない。
時間はかかるかも知れないが、コウキとの戦いで操れることは出来ることから、もっと探っていけば自分の姿を元に戻せる方法が見つかりそうな気がする。
「――――」
「アンラ?」
アンラは見つめている手にそっと触れた。
そして、俺の手を握った。
「ルーカスって……自分のリスクを負ってまで守ろうとするところあるよね」
「まあ確かにそうかも知れないな」
「もう、そんなことしないで」
「えっ?」
アンラは俺の眼の前まで近寄って来ると、地面に投げ出していた俺の腕に頭を置いた。
いわゆる腕枕というやつだ。
「今までルーカスは色んなリスクを背負ってまでそういうことをしてきたと思うけど……これからは無理しないでほしいの。これはわたしからのお願い」
「な、なんでだ?」
「だって、わたしが心配だから」
アンラは俺の頬に手を添える。
「まだ出会ってからそんなに経っているわけではないけれど、わたしはルーカスのことをずっと見てきた。だから無理してるのかなって思う時もあるの。わたしだって国のみんなのために無理しちゃうところがあるってルーカスに言われたことがあるけど……ルーカスだって無理してない?」
「――――」
「だからお互い補い合いながら頑張っていこう? 時にはゆっくり羽根を伸ばすことだって大事だと思うから」
「そうか……そうだよな」
今まで無意識にやってきたけど、アンラにそう言われて自覚した。
アンラもそうだけど、俺も解決策を見つけようと焦っていた。
彼女の言う通り、そんなに焦らなくてもゆっくりとやっていけば良い。
「さすがアンラだな」
「べ、別に褒めなくても……わたしはあくまで意見を言っただけで……」
意外に褒められて嬉しかったのか、少し照れくさそうにしていた。
その表情を見た俺は微笑む。
「いや、ありがとうアンラ。ゆっくり焦らずにやっていこうな」
「うん……」
俺とアンラはお互い眼を合わせると、顔を近づけて唇を重ねた。
俺は本当にアンラに会えて良かったと心から改めて思った。
このまましばらくこの雰囲気で……
「おや、随分とべっぴんさんを連れてるなあ」
「「――――!?」」
やばい見られた!?
せっかくの雰囲気を壊された俺たちは慌てて離れると、声がした方へと振り向いた。
そこには懐かしい顔が映った。
「と、父さん?」
「その声は……まさかルーカスか!? その姿は一体何があったんだ!?」
声の正体、それは久しく見ていない俺の父親だった。
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