第28話 武具の売却
前回は、一度ゴブリンを倒しただけでランクアップした。
試しにソラは、ダンジョンの一般モンスターを一体倒してみる。
しかし、ランクが上がらない。
「レベルアップと同じ分だけの経験値が必要なのかな?」
そう考えて、ソラは立て続けにEランクダンジョンのボスを三体撃破した。
しかし、やはりランクは上がらなかった。
○
「限界突破スキルがあるのに、どうして上がらないんだろう?」
ソラは自室で頭を抱えていた。
以前はただのゴブリンを倒しただけで、FからEに上がったのに、今回はボスを三体撃破しても上がらなかった。
その理由が、皆目見当つかない。
「もっと強い相手と戦わなきゃ駄目なのか? たとえば限界ギリギリになるくらいの相手、とか……」
ぽつりと呟くと、その可能性が高いように思えてきた。
Eランクに上がった時、ソラは素手でゴブリンと戦った。
その時のソラは全力を出して、さらに虚を突くことでやっとゴブリンを倒せるレベルだった。
だが現在は装備が揃ってきており、おまけに油断さえしなければ、全力を出さずともEランクのボスが倒せるレベルになっていた。
「限界突破……そうか、全力を出さないから、上がらないのか」
上のランクの魔物と戦うには、Dランクのダンジョンに行かなければならない。
しかしここで一つ問題がある。
Dランク以上のダンジョンからは、セキュリティゲートが設置されているのだ。
ダンジョンの周囲百メートルほどが壁で囲われており、ダンジョンの出入り口の前に一つだけ、セキュリティゲートがある。
一般人の侵入を防ぐための設備だ。
これはダンジョンが出現したばかりの頃の名残である。
一般人が面白半分でダンジョンに足を踏み入れる事件が多発した。Eランク以下のダンジョンでは救出が上手くいったが、Dランク以上になるとほとんどの場合救助が上手くいかなかったのだ。
そのため、Dランク以上のダンジョンに侵入防止の壁を設置。セキュリティゲートを通過しなければ、ダンジョンに入れないようにした。
現在、ソラは冒険者カードを持っているが、ランクはFだ。
「これでダンジョンに入れるかな?」
一定のランク以下は弾くように設定されていないだろうか?
少なくとも、ネットにはそのような情報はないが、不安である。
「一応、行くだけいってみるか」
もし冒険者カードが弾かれた時は、またその時考えれば良い。
○
翌日。ソラは一先ず冒険者用の買取店に向かった。
買取店では、ダンジョンで取得出来る様々なアイテムを、分け隔てなく買い取ってくれる。
最も持ち込まれる数が多いのは、魔石だ。
その他にも、中古のダンジョン武具や、ドロップしたアイテムなども買い取って貰える。
ここまで、ソラは十体以上のボスを討伐し、ダンジョンをクリアしてきた。
【完全ドロップ】のおかげで、いまではインベントリに三十近い武具が収納されている。
しかしここへきて、そのアイテムがお荷物になりつつあった。
「あまり使い道がないし、ため込んでおいても無駄になるからなあ」
ボスを倒す度に、アイテムが3~5個ドロップする。
これまで回収したアイテムのうち、ソラが使えるものが一割程度だけ。
その他のアイテムは、インベントリに入れっぱなしになっている。
剣や短剣などであれば、いまの装備が壊れた時用のスペアに使える。
だが槍や盾、弓などは使えない。
杖に至っては、ステータスが足りないので装備することさえ出来なかった。
それらの使わないアイテムを、ただ持っていても宝の持ち腐れだ。
お金に換えてしまった方が良い。
インベントリの存在がバレてはいけない。
ソラは予め鞄に一本だけ、杖を差していた。
一気に売ってしまいたいが、ソラが持っているのは人工武具ではない、ダンジョン武具だ。
大量に持ち込めば不審に思われる。
なので、まずは1本だ。
(一店舗で全部売るんじゃなくて、いくつかの店舗に分散させて売れば、不審に思われないはずだ)
「いらっしゃいませ。本日はお売り頂けるものをお持ちですか?」
「はい、これをお願いします」
買取カウンターに、ソラは杖を載せた。
この杖は、Fランクのダンジョンでドロップしたものだ。
Fランクのものとはいえ、ダンジョン産の武具は人工のそれより性能が良い。
きっと高値が付くはずだ。
ソラは固唾を飲んで査定を見守った。
「大変お待たせ致しました。本日はダンジョン産の杖をお持ち頂きまして、誠にありがとうございます。査定額ですが、こちらとなります」
「おおー」
差し出された見積もり用紙に書かれたゼロの数に、ソラは目を見開いた。
七十万。それが、今回ソラが持ち込んだアイテムの査定額だった。
Fランクのダンジョンならば、小一時間で攻略出来る。
1度の攻略で武具が最低1つは落ちるので――、
(最低時給でも70万円!?)
ひえぇ、とソラは戦いた。
震えながら、見積書にサインを入れる。
「それでは、冒険者カードをご提示ください」
「は、はい」
頷いて、ソラはカードを取り出した。
冒険者の売買は、すべてこのカードに記録される。
冒険者は、個人事業主だ。
すべての収益と経費を、帳簿に記載することが義務付けられている。
しかし、すべてを冒険者に任せれば、必ず脱税(ズル)する者が現われる。
それを防ぐために、冒険者専用の納税システム――この冒険者カードが誕生した。
これを使えば、アイテム売却時には見積もり価格から税金が天引きされるし、また購入時にはその金額が経費に計上される。
年度末になるとそれらの記録が、国税庁に自動的に申告される。
経費が多ければ、新年度に還付金が戻って来る。
売却時の天引きは痛いが、少し多めに税金が引かれるため後から納税する必要はないし、自分で帳簿を付ける手間がないのは嬉しい。
ダンジョンに関係するお店はすべて、システムを導入している。
システムを導入していないお店での購入は問題ないが、売却は厳しく罰せられる。
ちなみにこのお店は当然、システムが導入済みの認可店だ。
ソラのカードを受け取った店員が、にわかに顔色を変えた。
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7月5日に拙作「小説版・生き返った冒険者のクエスト攻略生活」2巻が発売となります!
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