烙印を背負う少女を『救』うたった一つの方法

朝我桜(あさがおー)

序章 さよなら! 『理不尽』な仲間たち!

第1話 こうして『僕』は追放されました。

「フィル、テメェはもう用済みだ! どこへなり失せやがれ! 二度とそのツラ見せんなっ!」


 BOOM!!


「前から気に食わなかったんだ! 毎度毎度手入に何時間もかけやがってっ! オレにムダな時間を取らせやがってよぉっ!」


 痛っ!


 金髪の男が背中に思いっきりケリを入れたてきた!


 彼はリーダーのA級賞金稼ぎバウンティーハンター、≪エリオット=ウォラック≫。


 その道なら知らない人はいない手だれ。


 使いこなすのが難しいと言われる〈ショットガン・アックス〉・【シルヴァラート】の数少ない使い手。


 けど見ての通り、性格がちょっとアレだ。


 ただ田舎から出てきて、職が見つからなくて。


 行く当てもない自分を拾ってくれたのがエリオットだった。


 だけど今日。


 そう僕こと≪フィル=ブリンナー≫、16歳はエリオットの率いる『ウォラック興産』から追い出される。


 何をしたかって? 知らないよ!


 だってついさっきを依頼クエストを達成して、たんまり金を得たばかりで。


 じゃあこれから分け前をっていうときに、いきなり酒場から追い出されたんだっ!


 もう訳が分からない……なんなんだよ。もう……。


「リーダーは手入しか能のねぇごくつぶしには用がなぇっとさ!」


 こいつはチームナンバー2の≪エディ=モンテロス≫。


「手入なんざ店でお前なんかより安くできるしよ。ひ弱でまともに荷物持ちもできねぇしよ! カカカッ!」


 下品に笑いながら見下ろす、ヒゲ面のこわもての男だけど。


 この人いつもファスナーが半開き。


 いい加減上げろよ――なんかちょっとムカついてきた。


「なんだぁ? その目は?」


 あ、しまった。つい――。


「おい! ヴィニーっ! あいつから銃をぶんどれっ!」


 なっ!


 そんなことされたらモンスターがうじゃうじゃいる荒野で生きていけない!


「へぇっ! 兄ちゃんっ!」


 デカい図体の男がゆっくりと近づいてくる。



 このおよそ賞金稼ぎとは思えない、おだやかの男はエディの弟、≪ヴィニー=モンテロス≫。


「待ってっ! ヴィニー! が……」


 自慢の馬鹿力で思いっきり押さえつけられる!


 くそっ! まったく動けない!


「ごめんな。フィル。オイラは思うところないんだけど、言うこと聞かないと兄ちゃんキレるから」


「さっさとしろ! ヴィニー!」


 とヴィニーがホルスターに手をふれたその時――。


「ギャーッ!!」


 GYARRッ!


 バックの中から友達、ジャスパーフェネックの≪キキ≫が飛び出し、ヴィニーの指にかみついた!


「ぎゃぁぁぁぁっ!!」


「キキっ!!」


「ウワァンッ!! ウワァンッ!!」


「こいつ! オイラの指にかみつきやがった!」


 エディが銃口を向ける!


 まずい、キキが! 


「フィル! そいつをよこせぇ!」


「いやだ! ぜったいにいやだ!」


 とっさにキキをかばい、気付いたら僕は引き金に指をかけていた。


「てめぇ! り合おうってのか! 上等だっ! ぶっ殺してやる!」


 そうだ。簡単な話だったんだ。


 自分の大切なものが傷つけられそうになっていて、じっとなんてしていられない!


 こうなったらとことんやってやる!


 そう僕は腹を決めた――。


「いい加減にしろお前らっ! もう5分もごちゃごちゃやってんじゃねぇ! オレは時間をムダにされるのが一番キライだって知っているよなっ!?」


 止めたのは意外にもエリオットだったんだ。


 その手の中の時計を力いっぱいにぎりしめている。


「――いや、すいやせん。リーダー、アイツのヴァラクルスを売れば多少金になるかと思いやして……」


「オレの時間より、アイツの【刻印コード】付きの銃の方が価値があるってか?」


「そういうわけじゃ……」


「あんな役立たずにこれ以上時間をかける価値はねぇ!」


「……で、でもよ」


「銃があろうが〈損壊ヴァンダライズ〉の【烙印スティグマ】ごときで、弱ぇヤツはこの荒野じゃ生き残りゃぁしねぇよ!」


「そ、そうだな……」


「おう、どうせその辺で野たれ死ぬだけだ! ほっておけっ!」


 とエリオットは酒場に戻っていく。


「リーダーに感謝するんだな! お前の命なんか酒より価値がねぇってよ! そうだ!」


 ぐっ……。


「てめぇの【烙印スティグマ】は〈損壊ヴァンダライズ〉なんかじゃねぇ! 無能だ! 無能! カカカッ!」


「じゃあな。フィル……」


 HAHAHAHA……


 一人取り残される僕。


 聞こえてくるのは一部始終を見ていただろう女の子たちの笑い声。


「――ホロロロロ……」


「うん、心配いらないよ。キキ――行こ?」



 そして僕らはこの町、ルチルタウンを出ることにした。


 馬もない、金もない、行く当てもない。


 気ままに風のおもむくままに。


 それこそ枯草玉ダンブルウィードのように――そう思っていたんだけど。


「やっと見つけた! フィル! 油まみれのグリージーフィルっ!」


 誰だよ? その名前で呼ぶのは?


 確かに町の女の子からそう呼ばれているよ。

 

 毎日手入れしてるんだから仕方がないじゃないか。


 振り向けば、みつあみ一つ結びの白いアルビノ少女がいた。


 息を切らせて、どうしたんだ? この子?


 あ、そうだ。


 この子は昨日、手入れと【刻印】入れを金といっしょに押し付けてきた。


 名前は確か……。


「ウィンウィル=マックイーン……さん?」


「……ハァ……ハァ……そう。覚えていてくれた……んだ。名前……ちゃんと教えてくれなかったから探すの大変だったんだから」


「探していた? なんで?」


「あんたってすごいね。昨日入れてくれた【刻印】のおかげで命中精度がものすごく上がって、だから一言お礼言いたくて」


 と顔を上げたマックイーンさんは、にぃっと笑って見せたんだ。






―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 次回! 「僕の人生を変えた少女との『出会い』!?」

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