閑話:第七の罪源2

 正直なところ、白金等級の冒険者が村に来た時点では、かなり不利な状況だった。しかし運のいい事に、彼女はギルドの立地位置を確認すると、すぐに少数民族同盟へ戻っていった。


 オレの能力が異性への魅了に特化しているとはいえ、流石に同じヒトで、自分よりもはるかに強い存在を隷属させるのは難しかった。魔物なら何とかなりそうだが、隷属させる瞬間はそれなりに目立つ。ヴァインみたいに神聖魔法と偽って使うならまだしも、俺は表向き「非力な不死者」なのだ。そういうのは避けたい。


 そうこう考えているうちに村の西端に到着する。木の実を拾っているという事なので、当然と言えば当然なのだが、見える範囲にはいなかった。


 周囲では風に舞う枯れ葉が渦を巻いている。少しの肌寒さを感じて、オレは服の崩れを正してから村の外に足を踏み出した。


「さて、二人はどこかなっと」


 森の中と言っても、ある程度人の手が入っている。歩きにくいなんて事は無い。ただ視界の悪さは辛いところがあるな。


 もう少し冬に近くなれば、葉っぱも全て落ちるだろうから、視界も少しは良くなるだろうが、そんなころまでここに留まるつもりはない。


「やあ、お嬢さん方」


 森の中を分け入って少し歩いたところで、二つの人影があった。片方は修道服を着た黒髪の女、もう一人は普通の村娘という感じのいで立ちだ。


「っ!? ……ああ、ドラン商会の」

「えっ、わわっ、初めまして! メイと申します!」


 二人はオレに驚いて顔を上げた。メイと名乗ったほうが村娘で……聞いていた風貌と、着ている服からしてこっちがイリスか。


「ああ、そんなに畏まらなくていいですよ、私は村の人たちに挨拶して回ってるだけですから」


 笑顔で取り繕って、俺は一歩踏み出して木の実を拾う。これはシイの実か、灰汁が少なく、食べやすい品種だ。


「ガロア神父の所に向かったのですけどね、シスター・イリスがいらっしゃらないようなので、ここまでお二人を探しに来たという訳です」


「は、はぁ……」

「そんな、言ってくれたらわたし達の方からお伺いしたのに」


 イリスは困惑、メイの方は遠慮か、各々の反応を見て、与しやすいほうを慎重に選ぶ。イリスさえ落としてしまえばいいが、そうなるとメイが邪魔になる。かといって二人を消せばいいかというと、そうでもない。


 オレは、イリスは複数の人間を連れてこの村に移住したことを知っている。彼女を消せば、後々禍根を残すことになるのは必至だ。なるべく穏便に、周囲に気取られないように遺物は回収する必要がある。


 唇を舐めて、オレは二人から信頼を得る準備を始めた。

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