第36話 第四の罪源5
空圧波により動きの鈍った戦鎚が後方に倒れる。そして、それが横方向に弧を描き、俺たちの方向へ、回転しながら急速に迫ってくる。
「っ!! アンジェ! 行けるか!?」
「了解っす!」
あの巨大な戦鎚をこちらに投擲したことを察し、俺はアンジェに支援魔法をかけて叫ぶ。まさかあの大質量の物体を投擲に使うとは完全に想定外だったが、それでもアンジェは動いてくれた。
「ぐぎっ……あああああっ!」
前回の襲撃から大盾の修理は終わっている。支援さえ乗せていれば、あの大質量とはいえ、いなすのは不可能ではなかった。
そして、戦鎚が無くなった後の行動は予想が付く。
「アンジェ! 気を抜くなよっ!」
「――っ! 了解っす!」
前回の戦いでは、主武器である戦鎚をどうにかして油断したところを、補助武器の棒術でやられた。今回もそのような戦術で来るはずだ。
俺は一つ魔法を自分にかけて、状況を分析しようとする。
「くっ! 何度も同じ手が通用するとは思わないで欲しいっす!」
投擲した戦鎚の砂埃に紛れるように、ハヴェル神父がこちらへ突進してくる、地形的にはアンジェの居る部分がくびれる形になっており、そこで防衛線を張れるはずだった。
「――」
「っ!? ……えっ!?」
しかし、神父はアンジェをすり抜けるように素通りし、イリスの方へと駆けていく。
「加速っ!」
仕方ない。俺は諦めて支援魔法を発動させる。
一歩、イリスと襲撃者の間に立ち、左手で鉄棒の打撃を防ぐ。
ハヴェル神父は、魔力収束炉に弾かれたと知覚すると同時に、鉄棒を構えなおし、次は刺突する形でこちらに突き込んでくる。
二歩、体をよじって躱し、イリスの襟首を掴んで遠くへ投げ飛ばす。
手応えが無いのをハヴェル神父はすぐに知覚し、鉄棒を回転させて俺の脇腹を狙ってくる。
三歩、地面を踏みしめ、両手で鉄棒をしっかりとつかむ。
「ぐっ……!!」
凄まじい威力だが、俺も負けていない。
彼の鉄棒をがっちりとつかみ、その場にハヴェル神父を拘束する。
「……私と同レベルの筋力を発揮できるとは」
「タネがわかれば、俺だってできるさ」
回復属性の魔法「持続治癒」は継続的に肉体の損傷を回復する。俺はそれを加速を使うより前に、自分に掛けていた。
人間の力は一〇〇%を発揮できないようにできている。一〇〇%を発揮すれば筋繊維が耐えられず、損傷してしまうからだ。
ならばもし筋繊維が損傷する程の力を発揮したとして、損傷するそばから回復すれば通常以上の力を発揮できるのでは。前回の襲撃で使っているのを見て、俺はそう考えたのだ。
もちろんこれは普通の回復属性魔法の使い方ではない。思いつく人間が居たとすれば、それは回復魔法しか使えない人間が、どうにかして魔法を戦いに応用しようと考えて、何とか見つけた一つだろう。
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