第6話 憂いの聖女1

 全体的に華やかな街並みのルクサスブルグだが、中心街にはその中でも特別に華美な地域があった。


 領主館があるのはもちろんだが、各地方の豪商たちが所有する邸宅、国賓を招くための迎賓館、とにかくこの国の資本すべてを集めたような、美しく優雅な街並みが続いている。


「……えーと、ここでいいんだよな」

「た、多分」


 そんな中、普段着で滅茶苦茶浮いている俺たち二人は、ある建物の前まで来ていた。


――迎賓館「白」

 迎賓館は国家ごとに決められた色で分けられているが、そのどれにも属していない国賓は「白」で表されている。


 見た目からして真っ白で、他の建物と一線を画しているが、俺たちがそこへ向かうと衛兵の一人が話しかけてきた。


「何か御用ですか?」

「聖女に謁見したい。これは紹介状だ」


 俺とアンジェは普通の冒険者だ。だからまあ、衛兵から向けられる無遠慮な視線は仕方ないだろう。


 衛兵は俺――正確には俺の左目にある遺物と、紹介状を何度も見返して、不承不承といった感じで門を開けてくれた。


「失礼の無いようにな」

「ああ」


 念のため身だしなみには気をつかったつもりだが、そのくらいでは俺達から溢れ出る平民オーラは隠せないらしい。


「アンジェ、変なこと言わないように黙っとけよ」

「言われなくても黙ってるっすよ……」


 ひそひそと言葉を交わしつつ、案内されつつ、迎賓館の中を歩いていくが、床に敷かれた絨毯以外、どこを見ても真っ白なせいで、案内がなければ迷いそうだった。トイレとか行きたくなったらどうしよう。


「こちらです」


 短くそう言われて、俺は促されるままノックをして部屋に入る。部屋の中も相変わらず真っ白だが、ベッドの天蓋と、窓から見える景色は色を持っていた。


「誰?」


 部屋の中に居たのは、何処にでも居そうな、普通の少女だった。


 服は着飾っているし、髪は丁寧に香油が塗られていた。しかし、なんというか、衣装に着られているというか、きなれていない印象を受けた。


「初めまして、私は魔眼の所持者となった冒険者です。教皇謁見への旅だけとなりますが、よろしくお願いします。聖女様」

「あ、はい……」


 聖女様はなんかあんまり気乗りしないのか、平民になんて興味ないのか、生返事を返すと興味を失ったように窓の外を見はじめた。


「では、またお会いすることがあれば」


 まあ、こういう手合いには腐るほど会ってきていて、いい加減うんざりしているんだろう。俺はアンジェを連れて、そそくさと部屋を出ていこうとする。


「聖女様! 今結界魔法に魔物の侵入があると――あ、これは失礼……」

「おっと、大丈夫ですよ」


 俺は扉から入ってきた背の高い衛兵を避けて、首を振る。どうやらこのルクサスブルグの中心地に、魔物の侵入があったらしい。

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