第73話 上位種
誠治たちは上位種の出現に気づいていた。
もっともそれは地上ではなく、空の戦いに於いてであったが。
敵の中に、大型で耐久力の高いワイバーン、ハーピーが混じるようになっており、誠治はともかく対空機関砲は撃墜に苦労するようになっている。
特定の個体の撃破に時間がかかるようになった反面、雑魚を含めた敵全体の数は当初の半分程度まで減ってきており、それは不幸中の幸いと言えた。
砲兵隊長からの支援要請を受けた誠治は、司令部のマキシムに戦い方を変える旨を伝えることにする。
〈状況の変化に伴い、特別攻撃班は上位種の攻撃に専念することにします〉
誠治の呼びかけに、すぐにマキシムから返答があった。
〈司令部了解。特別攻撃班の上位種攻撃専念を了承します。すでに上位種により二箇所の城壁が破壊され、新市街への敵の侵入を許してしまっています。よろしく頼みます〉
詩乃の気配探知の範囲外、弾幕の薄い外縁部の二箇所で、突破を許してしまったようだった。
「ラーナ、探査イメージ上で上位種を判別することって、できそう?」
誠治の問いに、傍らのラーナが答える。
「できないことはない。ただ今の状態だと、一度個体ごとに意識を集中して判別しないといけないから、時間がかかってしまう」
「そうか…………」
探査イメージでの判別に時間がかかるとなると、目視に頼るほかない。
だが目視の場合、しっかり判別できる距離はせいぜい三百メートル以内だ。
そうするとどうしてもリアクションタイムの余裕がなくなるし、第一、全方位を監視することができない。
「困ったな…………」
誠治は頭を抱えた。
「おじさま?」
詩乃が誠治の袖を引っ張った。
「ん? どうした、詩乃ちゃん」
「強い魔物を見分けられればいいんですよね?」
指を口に当て、ちょっと考えるように尋ねる詩乃。
「え、まぁ、そうだね」
「できるかもしれません。やってみましょうか?」
見上げるようにして言った詩乃と、驚いた顔の誠治の、視線が交錯する。
「できるかい?」
「はい。ちょっとやってみますね」
詩乃は目を閉じ、祈るように両手を胸の前で組んだ。
再び、メンタルリンクが結ばれる。
〈弱い魔物は悪意一色ですけど、強い魔物はこちらを見下すような色が混ざってるんです〉
詩乃はそう言いながら、探査イメージを皆に共有する。
〈だから、その色がある魔物だけコントラストをつければ……〉
誠治たちが見ている探査イメージ上の敵の中に、異なる『色』を持つ個体が何匹か浮かび上がる。
〈確認する〉
ラーナがそのうちの一匹に照準を合わせた。
〈これは…………〉
誠治は息を飲んだ。
その個体は、腕が際立って発達したオーク。
〈オークジェネラル。間違いない〉
ラーナの言葉で、三人はお互いの顔を見合わせた。
〈詩乃ちゃん、すごい! これならいけるよ!!〉
誠治は、詩乃の頭を空いた右腕で抱きしめた。
〈……私のことも頼って下さいね?〉
そう言いながら頰を朱くする詩乃。
ラーナは相変わらずの無表情で、どこか羨ましそうに二人を見つめていた。
〈ごめん。……でも本当に助かった。二人ともありがとう。これで上位種を狙い撃ちできるよ〉
誠治は詩乃とラーナ、二人の頭を順番にワシャワシャした。
「さて。うまくいってくれればいいんですが……」
クロフトは絶え間なく襲い来る魔物の群れを睨んだ。
開戦直後に比べて数が減っているとはいえ、上位種が混じった突撃はその脅威度をむしろ増している。
先ほど放った砲撃で、迫撃砲部隊はついに支給されていた小型爆火石を使い切っていた。
ここからは、先ほどかき集めてきた民生用爆火石の複数装填に切り替わる。
一つでは威力が足りない。
それなら何個かまとめて迫撃砲に突っ込んでしまえ、という発想だった。
どんな結果となるかは、やってみなければ分からない。
「砲撃よーい!」
隊長が叫び、号令の笛が鳴る。
「撃てえ!!」
鋭い笛の音と同時に、光輝く爆火石が多数打ち上げられる。
幸いなことに、発射自体は問題ないようだった。
光る小石たちは放物線を描きながら、散らばるように着弾する。
パパパパパン!!
今までのような大きな一撃ではなく、小さく弾けるような小爆発が目標付近に連続して炸裂した。
「どうですかね?」
クロフトは荒野を睨み、砂埃がおさまるのを待つ。
やがて測距担当が叫んだ。
「砲撃効果あり!! 一部上位種を除き、敵の半数以上を行動不能にした模様!!」
はぁ、と一息つくクロフト。
生き残りのオークジェネラルやオークロードを、誠治の銃撃が刈り取ってゆく。
その時、後ろからバシン、と背中を叩かれた。
「痛っ!?」
振り返ると、テレーゼが立っていた。
「なにため息ついてるのよ。やったじゃない!」
腰に片手をやり、不敵な笑みを浮かべるローブの少女。
「これでちょっとは勝機が見えたんじゃないの?」
「ええ、まあ。そうだといいんですが……」
この戦いが折り返しに来たのはクロフトも感じている。
だが、このまま本当に乗り切れるのだろうか。
彼は漠然とした不安を感じていた。
遠くノルシュタットをのぞむ丘に、二つの黒い影があった。
「まさか、これほどまでとは……」
右の影が呻く。
「放置すれば我々に仇なすは必定。この機会に潰しておくのが良かろう」
左の影が呟く。
「では、アレをけしかけますか?」
右の影が頷いた。
「それ」は怒りの中にいた。
しばらく前から、自分と、自分の眷属に纏わりついてくる何か。
一族は見えないその力に嗾けられて動いた挙句、既に大半が殺されてしまった。
「それ」は怒りに囚われた。
自らもまた何かに嗾けられていると知りながら、それでも残り僅かとなった眷属を率いて、仲間を殺した敵を皆殺しにするために動き始める。
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