第30話「勘違い」

 渋谷支部に戻ると、天ケ瀬がいたので彼女に礼音は話しかける。


「いつもお疲れさまです。精力的に活動していらっしゃいますね」


「え、そうですか?」

 

 彼女に言われて彼は目を丸くした。


「わたしが休みの日もふくめて、毎日のように【アルカン】に行って素材を持ち帰っていらっしゃるようですが」


 と天ケ瀬は言う。


「毎日!? すごいわ!」


 エヴァが尊敬のまなざしで礼音を見る。


「いや、まあ、はは」


 礼音はごまかし笑いを浮かべた。


(ピクニックや観光気分で行ってるだけだと言える空気じゃねええ!)


 天ケ瀬だけならまだしも、純真なエヴァがいると言いづらい。


 彼にとってはピクニックに行ったついでの収入が1000万なので、真面目に働いているわけじゃなかった。


「いや、誤解ですよ。そこまで熱心じゃありません」


「あら? そうですか?」


 一応礼音が否定すると天ケ瀬が笑みになる。


「日本人はシャイだっていうけど、本当なのね」


 とエヴァは微笑む。

 

(あれ? 勘違いされてる?)


 礼音は誤解をとこうとしたはずなのにと首をひねる。

 エヴァはともかく天ケ瀬は何を勘違いしているのか、彼には読めなかった。


「まあいいや。エヴァ、このあとどうする?」


 と礼音は聞く。


「おじい様が相談したいことがあるって言ってたわ。だからいまから来るそうよ」


 エヴァは自分のスマホを見せながら答える。


「相談したいこと? 何だろう?」


 礼音は首をひねった。

 

「手ごろな拠点でも見つかったのかしらね?」


 エヴァも聞かされてはいないらしく、彼のまねをするように可愛らしく首をかしげる。


「早いけど、候補がリストアップできたというならありえるかな」


 彼女に言われて、礼音はうなずく。

 

「レオンはどこがいい?」


 と彼女は聞いた。


「うーん、エリアの希望はとくにないんだよ」


 礼音は苦笑する。


「え、そうなの?」


 と言うエヴァに向かって彼はうなずく。


「ここ渋谷からそんなに遠くなくて、便利だったらいいかなって。まあわりとぜいたくな要求だと思うけど」


 礼音は我ながら無茶だという気持ちがある。

 渋谷駅から遠くなく、便利なエリアなら人気が高くて値段もするだろう。


 簡単に見つけられるとは思えない。


「そうなのね。でもおじい様ならきっと何とかしてくれると思うわ!」


 とエヴァは祖父への信頼を口にする。


「かもしれないな」


 彼女の言葉には礼音もひょっとしたらと思う不思議な力があった。


「やあ待たせたね」


 彼らが話しているところにリチャードが、黒服たちをともなって姿を見せる。


「おじい様!」


 エヴァがうれしそうに彼の前に立つ。


「エヴァ、レオンの邪魔にはならなかったかな?」


「もちろんよ。ね?」


 リチャードの問いに彼女は答え、礼音に同意を求める。


「ええ、彼女はとても力になってくれました」


 と礼音は答えた。

 もちろん社交辞令じゃない。


「ならよかった」


 リチャードはホッとした顔を見せる。



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