第24話 ユーザーの反応――六番目の怪女とバフ無双――

 教室の中。

 教壇の辺りに、中年の男性教師と、セーラー服姿の髪が長い女子が、立っている。

「転入してきた港村早亜夜みなとむらさあやだ」

 男性教師が手の平を上に向けて、横にいる女子を指し示しながら、生徒達に聞こえるように言った。

「港村早亜夜です。よろしくお願いします」

 彼女は名乗った後、お辞儀をした。

「君の席は、あそこだ」

「はい」

 彼女は空いている席に向かって歩き出す。

 彼女が近づいてくる。

 彼女は着席した後、の方に振り向いた。

 あの美しい顔を間近で拝めるのかと思いきや――

 視界に写ったのは、美少女の顔ではなかった。

 顔の中に眉と目が四つずつ、鼻と口が二つずつある。顔の輪郭も縦に伸びているようでおかしい。



「なんじゃこりゃあああ!!!」

 男の声が部屋の中に響き渡る。

 四畳半の部屋には、二十歳くらいの男がいる。

 無垢な床の上にはゲーム機が置かれ、テレビと接続されている。

 テレビ画面には四つ目女の顔が映し出されている。

 テレビは安い値段で購入したあまり大きくないものだが、それでもアップで映し出された顔は、大きくて迫力がある。

 ゲーム機の中には『49アドベンチャーズ』が入っている。

 彼は、このゲームの六番目のシナリオをプレイしている最中だったが、何の前触れもなく人間離れした顔が大きく表示されたので、驚きのあまりゲームパッドを離してしまった。

 彼はネットでの評判を見て、このゲームを買ってきた。

 雑誌のレビューはあてにならない、この前も、高得点だったゲームがクソゲーだった事で炎上した、こんなものよりもネットでのユーザーレビューの方が頼りになる――彼は、このように考えていた。

 ユーザーレビューで『グラフィックは綺麗』と書かれていた割に、一部のキャラクター以外はグラフィックが雑。

 フレームレートが小さいのか、動きは妙にカクカク。

 だが、彼はそのような粗には目をつぶってゲームを進めてきた。

 ユーザーレビューだって必ずしもあてになるわけではない、グラフィックの感想なんて一個人の主観に過ぎない、と考えながら。

 ――今のは、たまたまバグっただけだ。

 気を取り直してプレイを再開すると、今度は、顔が百八十度後ろに向いた男子生徒や、目と口が飛び出している女子生徒、腕と足が逆に付いた男性教師が、ゲーム中に現れた。



 友達も先生も魔物に惨殺されてしまったので、時間跳躍タイム・リープで何度も過去に戻り、ようやく元凶となる魔物を倒した。

 これで、みんな助かる。

 歩きながら教室の中を見回すと、何の変哲もない光景が、そこに広がっている。談笑する生徒達や、参考書を開いて一人で勉強に勤しむ生徒等……

 ――!?

 教室の中にいる生徒達が、固まった。凍り付いたように動かない。光景も、そのまま変わらない。



「まさか、フリーズしたのか?」

 ゲームパッドを手にした男が、茫然ぼうぜんとしながらつぶやいた。

 彼はゲームパッドのスティックを上下左右に倒したり、ボタンのあちこちを押したりしている。

 だが、ゲーム画面は先程から全く変わらないままだ。

「ようやく、シナリオクリアかと思ったのに……」

 そうつぶやく彼の表情からは、落胆している事がうかがえる。

「それにしても、このゲーム、バグが多くないか!? 六番目のシナリオといい、今の十番目のシナリオといい……」

 彼の落胆は怒りに変わりつつある。



「君はクビだ」

 いかにもRPGの勇者らしい出で立ちの男が言った。

「なぜ!?」

「君が役立たずだからだ。剣技も魔法も全て中途半端! どちらを使っても、魔物に与えるダメージは一桁、良くて二桁じゃないか」

「でも、僕は武器の威力を大幅に上昇させる魔法を使う事ができる」

「いまいち信じられないな。俺にはその実感が無い。だが、どちらにしろ君が戦闘で活躍できていなかったのは事実だろ?」

「くっ……」

「そういうわけで、君はここに置いていく。少しでも生き残りやすくなるよう、武器と防具は没収しないでおくから、そこは感謝しろよ」

「……はい」

 勇者は男性戦士と女性魔法使い、女性僧侶を引き連れて、去っていった。


 勇者達が去った直後、地響きがした。

 振り返ると、そこには緑色のうろこと蝙蝠のような羽を持つ巨大な魔物――ドラゴン――がいた。

 手にしている剣に向かって、呪文を唱える。そして、ドラゴン目掛けて突進して、ドラゴンの体を斬り付ける。

 ドラゴンは叫び声を上げながら、その場に倒れ、消滅した。

 今と同じ要領で次々と魔物を倒し、魔王の居城を目指す。

 魔王の居城に着いた。見るからに大きく、そして禍々しい。

 中に入ると、多数の魔物がいたが、例の魔法と剣技を駆使して倒していく。

 ついに魔王の部屋に辿り着いた。


「よくここまで来たな。だが、お前もこいつらと同じ運命を辿る事になる」

 黒いローブをまとった魔王は、そばに転がっている白骨死体をあごで指した。

 四体の白骨死体は、勇者達と同じ服や鎧、アクセサリーを身に着けていた。

「……そうかな? 僕は、こいつらと同じようにはいかないぞ」

「ほう、自信満々なようだな。ならば、遠慮なくいかせてもらうぞ」

 魔王が襲い掛かってきた。

 怪しく光る弾や口から吐き出される炎、伸びてくる刃のような爪等、魔王の攻撃をかわしながら、例の魔法を使い、剣を強化する。

 攻撃をかいくぐりながら、魔王に近づき、魔王の体を斬り付ける。

「ぐっぎゃあああーっ!!!」

 魔王は絶叫しながら倒れた。

 辺りにファンファーレが鳴り響いた。



「何だこれは!? 魔法で剣を強化すれば、雑魚はおろか、魔王も一撃じゃないか!」

 男の声が四畳半の部屋に響いた。

「次のシナリオをやろう、次のを」

 彼はゲームパッドを操作して、十二番目のシナリオを選択した。



「君はクビだ」

 いかにもRPGの勇者らしい出で立ちの男が言った。

「なぜ!?」

「君が役立たずだからだ。剣技も魔法も全て中途半端! どちらを使っても、魔物に与えるダメージは一桁、良くて二桁じゃないか」

「でも、僕は全身の防御力を大幅に上昇させる魔法を使う事ができる」

「いまいち信じられないな。俺にはその実感が無い。だが、どちらにしろ君が戦闘で活躍できていなかったのは事実だろ?」

「くっ……」

「そういうわけで、君はここに置いていく。少しでも生き残りやすくなるよう、武器と防具は没収しないでおくから、そこは感謝しろよ」

「……はい」

 勇者は男性戦士と女性魔法使い、女性僧侶を引き連れて、去っていった。


 勇者達が去った直後、地響きがした。

 振り返ると、そこには鷲の頭と羽、ライオンの体を持つ巨大な魔物――グリフォン――がいた。

 呪文を唱える。そして、グリフォン目掛けて突進する。

 剣のような爪に何度も引っかれたが、ダメージは一切受けなかった。

 そのまま、グリフォンに何度も引っ掻かれながら、グリフォンを何回も斬り付ける。

 数十回程斬り付けた後、グリフォンは叫び声を上げながら、その場に倒れ、消滅した。

 魔法を駆使して魔物達の攻撃をかいくぐり、魔王の居城を目指す。

 魔王の居城に着いた。見るからに大きく、そして禍々しい。

 中に入ると、多数の魔物がいたが、例の魔法を駆使してどんどん進んでいく。

 ついに魔王の部屋に辿り着いた。


「よくここまで来たな。だが、お前もこいつらと同じ運命を辿る事になる」

 真紅のローブをまとった魔王は、そばに転がっている白骨死体を顎で指した。

 四体の白骨死体は、勇者達と同じ服や鎧、アクセサリーを身に着けていた。

「……そうかな? 僕は、こいつらと同じようにはいかないぞ」

「ほう、自信満々なようだな。ならば、遠慮なくいかせてもらうぞ」

 魔王が襲い掛かってきた。

 怪しく光る弾や口から吐き出される冷気、伸びてくる刃のような爪等、魔王の攻撃をかわしながら、例の魔法を使い、防御力を強化する。

 攻撃を受けつつも魔王に近づく。

 魔王の攻撃を何度もらったが、ダメージを受けないので、魔王に密着しながら、体を何度も斬り付ける。

「ヴッヴァーッ!!!」

 百回くらい斬り付けたところで、魔王は絶叫しながら倒れた。

 辺りにファンファーレが鳴り響いた。



「何だこれは!? 主人公が使う魔法と細かいところを少し変えただけで、先程とほとんど同じシナリオじゃないか!」

 男は再びテレビ画面に向かって怒鳴りつけた。

「魔法を使って無敵状態になって、ボスを倒すだけとは……。いまいち面白くない。気を取り直して次のシナリオをプレイするか」

 彼は十三番目のシナリオをプレイする。



「君はクビだぴゅ」

 いかにもRPGの勇者らしい出で立ちの男が言った。

「なぜ!?」

「君が役立たずだからだぴゅ。剣技も魔法も全て中途半端ぴゅ! どちらを使っても、魔物に与えるダメージは一桁、良くて二桁じゃないかぴゅ」

 ――何なんだよ! 語尾の「ぴゅ」は!

「でも、僕は素早さを大幅に上昇させる魔法を使う事ができる」

「いまいち信じられないなぴゅ。俺にはその実感が無いぴゅ。だが、どちらにしろ君が戦闘で活躍できていなかったのは事実だろぴゅ?」

「くっ……」

「そういうわけで、君はここに置いていくぴゅ。少しでも生き残りやすくなるよう、武器と防具は没収しないでおくから、そこは感謝しろよぴゅ」

「……はい」

 勇者は男性戦士と女性魔法使い、女性僧侶を引き連れて、去っていった。


 勇者達が去った直後、地響きがした。

 振り返ると、そこにはイカのような姿をした巨大な魔物――クラーケン――がいた。

 ――陸上なのにクラーケン!?

 呪文を唱える。そして、クラーケン目掛けて突進する。

 クラーケンにぶつかる、と思いきや、クラーケンをすり抜けていた。

 ――!?

 そのまま走り続ける。

 森も民家もすり抜け、魔王の居城に到着する。

 城壁をすり抜け、中に入る。

 そのままジャンプすると、天井をいくつもすり抜け、魔王のいる部屋に辿り着いた。

 あっという間の事だった。


「ヨクココマデ来タアル。ダガ、オ前モコイツラト同ジ運命ヲ辿ル事ニナルアル」

 ――何だこの胡散臭い中国人みたいな言葉遣いは!

 玉虫色のローブをまとった魔王は、そばに転がっている白骨死体を顎で指した。

 四体の白骨死体は、勇者達と同じ服や鎧、アクセサリーを身に着けていた。

 ――勇者達、死ぬの早すぎないか!? ここに来るまで、少ししか時間が経っていないぞ。

「……そうかな? 僕は、こいつらと同じようにはいかないぞ」

「ホウ、自信満々アルナ。ナラバ、遠慮ナクイカセテモラウアル」

 魔王が襲い掛かってきた。だが――

「アイヤー! サヨナラアルー!」

 いきなり魔王は絶叫しながら倒れた。

 ――何で、いきなり死ぬんだ!?

 辺りにファンファーレが鳴り響いた。



「何だこのシナリオは! 意味不明なのも大概にしろ!」

 また、男の叫びが四畳半の部屋に響いた。

 ――はっ! いかんいかん! 何度も叫んでいると近所迷惑になるじゃないか。

 彼は押し黙った。

 ――何なんだこのゲームは! ユーザーレビューと違うじゃないか!

 ――音楽とキャラクターデザインは、まあいい。グラフィックはいまいちだし、シナリオは変で、ゲームバランスもおかしい。何よりもバグが多い。ユーザーレビューを書いた人は、何をもって、あんな事を書いたんだ?

「はっ!」

 彼は何かを思い出したようだ。


『うそはうそであると見抜ける人でないと(掲示板を使うのは)難しい』 ――ひろゆき


 巨大掲示板サイトの元管理人が発した言葉だ。

 この発言は的を射ていた。

 掲示板に限らず、ユーザーレビューもSNSも、嘘は嘘であると見抜けないと、痛い目に遭うのだ。

 彼は、うなだれた。

 ――だまされた。ユーザーレビューサイトに。ステルスマーケティングという言葉を知っていたのに。


 だが、彼はここでへこたれなかった。

 ――このゲームのクソっぷりをネットに公開しよう。


 彼は再びゲームパッドを手に取り、今までプレイしたシナリオを、もう一回プレイした。

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