ソルとまたか

 水の塊を当てていく。徐々に速度と量をあげていく。最初は雨粒ほどだったのが、小石や石ぐらいの大きさへと大きくなり、歩く速度から走る速度、矢の速度へと上げていく。音も変わっていく。ソルもしゃべるどころではなく、避けることさえ出来ない。膝をついて、それでも耐えているようなので、続けていく。ここまで来ると頭がおかしいとしかいいようがない。土も混ぜつつ、かなりの手加減はしている。

「ねえ、かなり手加減をしているんだけど、そろそろ火と風を混ぜてもいい?」

「く」

 何も言えなくなったソルを見ながら、火と風を浮かべる。風を先行させる。

「待て待て、止めろ。中止だ中止。これ以上は死んでしまう。ランスが強いのはわかった。止めろ」

「次は手加減しないよ?」

「我々が止める」

 泥と水でぐちょぐちょになったソルは浮浪者か何かにしか見えない。汚いな。

「いい加減、負けを認めろ。けがをして引退したんだろう?何で引退したんだ?負けを認められないなら、冒険者に戻ればいい。その辺の勝てそうなモンスターを狩りながらその日暮らしを出来るだろう?」

「足が悪いから移動が大変で、数がいると対処できない。だから、引退した。だけど、祝福前にやられるのは我慢ならない。絶対にそれだけは認めることは出来ない」

「おいおい、ソル?現実がわからないのか?今さっき、剣で負け、その前は魔法で’手加減’されて負けているんだぞ。認めたくない気持ちはわかる。祝福前でこんなに強い、強すぎる。しかし、しかしだ、現実は無情に目の前に転がり見せつけてくる。これは事実で、認めようが認めないとしてもそうなってしまったことだ。冒険者、元冒険者が起きたことを受け入れられなければどうなる?死ぬ。前衛が死んで隊列が崩れて中衛が凌ぎなら下がる。それでもお前は動かない。パーティーメンバーは次々死んでいく。そしてお前も死ぬ。そんな状況だ。どうしても認められないのなら、ランスのしたことに対抗すればいい。ワイバーン単騎討伐、それ以上の成果を出してこい」

「引退したのに無理だ」

「では認めるしかない。自分に出来ないことを成した者を認めるんだ。お前のA級の冒険者パーティーでも出来なかったことだ。ソル、どうしてそんなに認めない?」

 ソルは絶対に譲らずに、認めないとだけハッキリと宣言する。そんなに認めない意味がわからない。もういいかと聞く耳を持たずに青白い炎を浮かべる。大きくしたり、小さくしたり、魔力量を上げたりする。軽く弾ける。結界がないから土の壁に当たって土を溶かす。魔力制御が甘かった。上位属性なんだからもっと丁寧に、もっと繊細に扱わないと維持が出来ない。難しいな。

「ちょっと待って、ランス。俺たちを殺す気か?」

「あの程度で死ぬの?よければいいと思うけど、どうしてそんなに怒るの?ここは訓練場で、僕は訓練をしているよ。間違ってるの?」

「魔法の的と壁が溶けているのに、人が受けたら大けがをするだろう?殺傷性の高い技は訓練場では禁止だ」

「炎の形を維持する練習をしているだけで、よくあることだよ。他に誰もいないんだから別に問題ないはずだよ?こっちは認められない中でやらないといけないから、必死なんだ」

 炎を大きくして、魔力を込めると熱量が上がる。上がる熱量は訓練場自体の気温を一気に真夏以上にする。否定するなら、それでもいい。だけどな、ソルがギルドの人間であることが納得いかない。

「このギルドごと焼き払うつもりか?!」

「訓練だって。敵意はソルとそれを雇用しているところにしかないよ?」

「つまり敵になると?」

「そうだね。そういうこともある。じゃあ、こうしよう。僕は訓練に西の草原に行ってくるよ。炎をある程度練習してくるから、その間に決めておいて。僕が敵になるか、なんなら対抗してくれてもいい。この炎の全力を出してみたいのもあるから、そっちでもいいよ?そっちの方が冒険者ギルドらしくていいよね?」

 訓練場から地上に上がって、外に出ると道を思い出しながら歩いて行く。人の多さは王都だからなんだろうな。村や領主街とは全然違う。店でパンや干し肉を補充しながら西の草原に向かう。いろんなお店があって何を売っているのか、見ただけではわからない店もあったり、食べ物を売っている店はよくわかるけどね。草原に着くと城壁からやや離れて、炎を出す。小さめの炎を弾けさせる。城壁には当たらないけど、魔力量によっては当たるかも。土の魔法で地面を下げていく。自分の身長の2倍ぐらい。城壁に当たることはないと思うからいいか。青白い炎を目の前に出して、魔力を込めていく。熱いので氷も一緒に出して、魔力を流し込んでいく。同じぐらいになったらそのままでいるようにする。

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