第2話
あの後朝食を食べ終えた俺は、俺の通っているストランド学園へ向かっている。
ストランド学園。
ストランドというのはこの国の初代国王の名前で、名前がある通り初代国王が大金を使って作った学園。
大金を使った学園ということもあり、設備は他の学園と一線を画していて、当時からその設備を求め貴族を始め将来有望な若者が沢山集まるエリート校だった。
そして、初代国王が死んだ後も後の国王が引き続き大金をこの学園に注ぎ、優秀な人間を沢山育てる為にと国の公共事業として今に続いている。
ん?
どうしてそんな学園に俺が入っているのか?
男との出逢いを学園が増やしたいというのもあって、この学園は男ということを証明すれば比較的受験に受かりやすくなっている。だが、俺は男ということを世間にバラしたくない為、男ということを証明せずに実力でこの学園に受験した。
前世でいう転生特典のような物が俺にあったのか、俺はこの世界に存在する六つの属性魔法を全て使える。普通の人だと一つ使えるくらいで、優秀な人になると二つ、化け物クラスになると三つくらいらしい。
他人の注目を浴びたく無い為俺はこのことを隠しているが、剣の実力はというと全然駄目。剣はおろか、刀すら握ったことの無い俺にとって、剣の実力というのは全然無かった。
例を出すなら、可愛い可愛い大天使ハルにも剣で俺は負ける。
ハルは俺に怪我をさせないようにと手加減をしていたらしいが、手加減されたそっけない一撃で俺は負けた。
ちなみに、ハルは剣よりも俺と同じく魔法の方が得意らしい。
……ハルと共通点があって俺は嬉しいよ。
そういう訳で俺は魔法の実技でかなりの点数を取り、剣の実技では極僅かな点しか取れなかった。魔法は手を抜いて、剣は本気を出したのにこの結果だった。剣の点が引きずって、合格点ギリギリだったのには今でもヒヤヒヤする。……剣の実技頑張ったのに。
剣を少しでも握れるようにと、日々の日課になっている腕の筋トレを軽くしながら学園へと向かっていると、学園へと辿り着いた。
「ねぇねぇ。この前発売された裸男画買った?」
「買った買った!! 胸元が繊細に描かれてた奴よね。」
「そうそう。久し振りにいい買い物したと思ったわ。」
顔を紅くしながら普通の声の大きさで、女子とは思えない会話を繰り広げる教室。 少し聞きなれたところはあるが、やはりまだ慣れない。金が沢山投じられた学園なだけあって、中世ヨーロッパのような街並みなのにここだけ前世の学校と同じくらいの設備が整っている。設備はちゃんとしているので、この学園に通えてよかったと思っているのだが、やはりこの雰囲気は良くない。教師が女子の下ネタに乗っかって同じように笑い始めるのが普通とはどうして思えない。
下ネタを言い合って盛り上がる女子に冷たい視線を送りながら、俺は席に着いた。
「おはよう。ノアちゃん。」
「おはよう。ティアちゃん。」
俺の目の前に来て、優しく微笑みかけてくるのはティアちゃん。
茶色のしっとりとした艶のある髪に、宝石のルビーのような透き通った紅い瞳に、綺麗な顔立ち。
本名はティアラというらしいが、俺は愛称でティアと呼ばせて貰っている。
ティアは女子の中では珍しい、淑女のような控えめで温厚な性格。
下ネタの会話を繰り広げることもなければ、他の奴等と違って積極的に肌を晒すようなこともない。
周りからはたまに、俺と共にむっつりと呼ばれていることがあるが実に俺好みの女の子だ。
ちなみに、ティアにちゃん付けされてるのは、俺が裾の長いドレスを履いて女装しているから。
中性的な顔立ちということもあって、あまり嬉しくないが俺の女装した姿は名家の令嬢にしか見えない。初めてハルに女装姿を見せた時は「お兄ちゃんがお姉ちゃんになっちゃった。」とハルが泣き出したこともあった。
だから俺は男と疑われることはなく、女として認識されている。ティアにちゃん付けされてるのが、その証明だ。
「そういえば今日、ダンジョン攻略があるみたいだよ?」
「え? それって、本当なの?」
「うん。ノアちゃんがまだ教室に来てない時にやってきて、先生が急遽やるって言ってたから多分そうだと思う。」
ティアの言葉に、五月蝿かった教室が一瞬で静かになる。
下品な言葉が教室内に交わされることが無くなるのは嬉しいことだが、俺にとってもダンジョン攻略は嬉しいことではない。
この世界のあちこちにはダンジョンという魔物が発生する危険地帯がある。
ダンジョンは放置しておくと次第に何処からか現れた魔物の住処となり、魔物は繁殖スピードが早いため気付けば手をつけられなくなる。だから、冒険者がダンジョンの魔物を繁殖しない程度に狩っていくのだが、冒険者がサボったのだろうか。
こんなにも教室が静かになったのは、ダンジョン攻略が物凄く苦労する為。
攻略という言葉が使われている通り少し狩るだけじゃ帰れず、一度ダンジョンを安全な状態に戻すべくダンジョンの魔物を限りなくゼロにしなければ帰れないのだ。長い時は、一日で終わらず三日帰れない日もあった。
来たばっかだけど帰りたい……
俺が小声でそう呟くと、ティアが俺にコクコクと頷いた。
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