第241話 星繋ぎの夜会(11)
不意に甲高いラッパの音が会場内に鳴り響くと、招待客は一斉に立ち上がった。
「あ、国王陛下がお出でになられたみたい。わたくし、父の元に戻るわね」
クリスさんと共に人混みに消えていくロクサーヌと入れ替わるように、シュヴァルツ様が戻ってくる。
「問題なかったか?」
「はい」
「恙無く」
ご主人様の質問に頷く私と家令。……本当に、ツツガムシの入る隙もない鉄壁のガードでした。
招待客が注目する中、軽快なファンファーレの後、衛兵が高らかに宣言する。
「国王陛下、キャメロン殿下、ご入場!」
入口に見えた影に、皆が一斉に膝をつく。陛下は悠然と巡り星の大樹の下まで歩いて来ると、一同を振り返った。
「皆の者、面を上げよ」
重厚でありながら、よく通る耳に心地よい声。
フォルメーア王国国王ブラムウェル陛下。巡り星よりも眩い金髪に立派な顎髭、透明度の高いエメラルドの瞳。堀の深い、左右対称の美しいお顔立ちは、私の父と同世代とは思えないほど若々しい。お隣に居るのは第三王女のキャメロン様。私と変わらぬ年齢の彼女は陛下譲りの金の髪に緑の瞳、優しく微笑む様は天使のように愛らしい。フォルメーア王家は美形揃いだと諸外国でも評判だ。
「よく集まってくれた、我が同胞よ。今宵は良く呑み良く語り、大いに楽しんでくれ」
気さくな挨拶に招待客は立ち上がり、陛下と言葉を交わそうと集まってくる。王女殿下の周りにも人だかりができている。平時なら王族にこちらから声を掛けるなんて絶対出来ないけど、この夜会は無礼講のようだ。……私には神々しすぎて足が竦んでしまいますが。
初めて直に拝見するお二人のお姿に緊張で凍りついていると、大勢に囲まれて談笑していた陛下が、ふとこちらに視線を向けた。
丸い緑の瞳が嬉しそうな弓形に変わる。
「シュヴァルツ! ようやく
途端に招待客の人垣が割れ、道が拓かれる。
「国王陛下、お招きありがとうございます」
恭しく頭を下げる将軍に、陛下は「心にもないことを!」と快活に笑う。……バレています。でもこんなに気さくに声を掛けてくださるということは、陛下とシュヴァルツ様は仲が良いのでしょうか?
「料理も思う存分食べていってくれ。シュヴァルツにも満足できるよう、たっぷり用意してあるからな」
……シュヴァルツ様の健啖ぶりは国王様まで知るところなのですね……。
陛下は笑顔でシュヴァルツ様と会話しつつ、傍らで石になっていた私に目を留めた。
「ところでシュヴァルツ、このお嬢さんは?」
ひぇ、畏れ多いっ!
声を掛けられたことに恐縮してギクシャクお辞儀する私を、シュヴァルツ様が紹介する。
「彼女は私の縁者、ミシェル・テ……」
言い終わる前に、
「陛下!」
突然官吏の制服を着た青年が駆け寄ってきて、陛下に何か耳打ちした。陛下は何度か頷くと、招待客を見回した。
「皆の者、余はそろそろ行かねばならぬ。もうじき新しい王族が増えるのでな」
会場からわっと歓声が上がり、人々は膝をつき我が王を見送る。
羽飾りのついたマントを翻し出口に向かった陛下は、何かに気づいたように一度だけ振り返った。その視線の先には……。
……あれ? なんか目が合った気がする。
「はて? どこかで……」
小さく首を傾げながら、国王は王女を連れて星繋ぎの夜会を後にした。
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