第99話 ある日の執務室
「庭師を雇った」
ガスターギュ将軍がそう言ったのは、気怠い昼下がり。
初秋の穏やかな太陽が暖める執務室は瞼が重くなりすぎて、眠気覚ましに俺が渋めの紅茶を淹れた時だった。
「お。あの庭、やっと本格的に整備する気になったんですか?」
前にお邪魔した時は雑木林だったもんな。
俺がソーサーに載せたティーカップを将軍の机に置くと、彼はお礼とばかりに持参したバスケットを開いた。中には小振りのスコーンがぎっしり。カラフルなのは、フレーバーの種類が多いからだろう。
俺は遠慮なく一つ摘んで半分に割って口に入れる。
「うまっ」
サクッと香ばしく焼き上げられた生地が、口の中でホロリと崩れる。俺はスコーンにはクロデットクリーム山盛り派だけど、これはなくても十分美味しい。多分、将軍の
「特に人を入れるつもりはなかったのだが、ミシェルについてきた」
ガスターギュ将軍は、チョコチップスコーンを一口で頬張りながら答える。
どうでもいいが、一口でスコーン食うと口の中がモッソモソにならないか?
「その庭師がミシェルさんの知り合いだったってことですか?」
「いや。あの屋敷の前の持ち主の庭師の子供だ」
……ややこしいし、要領を得ないんすけど。
「どんな人なんですか?」
「小さい」
物理的にか?
「ミシェルさんくらいですか?」
「それより小さい」
ちっさっ!
小柄なミシェル嬢より小さいって、どんな庭師だ?
…………はっ! あれだ。
俺はある結論に辿り着いた。
ノームだ。
どこのご家庭のお庭にも必ず一体は置いてある、あのトンガリ帽子に白ヒゲのお爺さんの人形。
すごいぞ、ガスターギュ家。当主がトロルで手下がブラウニーとノームだ!
……って、どんな人外魔境だよ。
「じゃあ、今後はそのお爺さんが庭の管理を……」
「……どこから出てきた? その『爺さん』という単語は」
すっかりノーム人形を想像して話を続ける俺を、将軍は怪訝そうな顔で聞き咎める。
「庭師は女だ」
「へ?」
「確か13と言っていた」
「うへぇ!?」
子供! 女の子じゃん!
ああ、だからミシェル嬢より小さいのかっ。
……しかし、子供で女性の庭師なんて、王都でも探したってそうは見つからないよな。
ミシェル嬢といい、ノーム嬢(仮名)といい、ガスターギュ家にはどうしてこうも
……ノームの実力は未知数だが。
「今度、閣下のお宅にお邪魔させてくださいよ」
俄然興味が湧いた俺だけど、
「無理」
やっぱり今日も秒で断られた。
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