第67話 海へ(港)
「さあ、次は何がしたい? 好きなことをしていいぞ」
横柄なご主人様が鷹揚に訊いてくる。
……
私は釈然としない気持ちで内心ツッコミを入れるけど、拗ねてばかりはいられません。だって、ここは真夏の海! 遊ばなきゃ勿体ない!
「では、港の方に行ってみませんか?」
私はビーチの先の岩場の奥を指差す。
「港には異国の船もたくさん停泊していますよ」
「ほう、それは興味深い」
意外と乗り気なシュヴァルツ様と並んで、私達は港へと向かった。
◇ ◆ ◇ ◆
高く隙間なく石が積み上げられた堤防の脇を通り、港に着く。
入り江には数え切れないほどの船が並んでいた。
「壮観だな」
強い海風にはためく帆の群れに、陸地の将軍は感嘆の吐息を洩らす。
「今まで、渡し船程度しか見てこなかった」
二人乗りの漁船から、何百人も収容できる客船まで。船体の形やマストの数も様々だ。沖に浮かぶ五本マストの大型船は、浅瀬に入れずに遠くに碇を下ろして停泊しているのだろう。
行き交う人々の服装も言葉もまちまちで、国内にいながら異国に迷い込んだ錯覚に陥ってしまう。荷降ろしをする水夫達はみんな屈強でよく日に焼けていて、シュヴァルツ様が混じっても違和感がなさそうだ。
「あんな巨大なシロモノが水に浮くのだから不思議だな」
照り返しの強い海の日差しに手を翳しながら、彼は大型帆船を憧憬の眼差しで眺める。目に見えてはしゃがないけど、船が気に入ったみたいだ。
足に根が張ったようにその場から動かず帆船を見つめるシュヴァルツ様に、私ものんびり堤防の縁に座って潮風にそよがれていると、
ブオーーーン!
ちょっぴり気の抜けた法螺貝の音が響いた。
「出発するよー! 乗りたい方は急いでー!」
頭にターバンを巻いた恰幅のいい男性が、声を張り上げる。彼が手にしている、舟板の切れ端に書かれた看板の文字は……!
「シュヴァルツ様、行きましょう!」
私は勢いよく立ち上がると、スカートについた砂も払わずご主人様の袖を引いて駆け出した。
「む? どうしたのだ?」
いきなりのことに、シュヴァルツ様はつんのめりながらも私の後をついてくる。
振り返った私は、戸惑い顔の彼ににっこり微笑んだ。
「これから遊覧船が出ますよ!」
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