④
「あの、少しよろしいでしょうか?」
そちらに目を向けると、サロンの
「どうかなさいましたか? ラーナ様」
私は彼女に中へ入るよう
シドが温かい紅茶を淹れてくれて、二人だけのお茶会が延長された。
「ヴィアラ様が私たちを
「っ!」
動揺する私を見て、ラーナ様はくすりと笑う。
「そんな顔なさらないで。そうだろうなと思っていましたから」
ラーナ様によると、呼び出されたときにメンバーの名前を見てすぐに
多分、気づいているのは自分だけだから安心して、とも言ってくれた。
「ヴィアラ様のお気持ちは、察するに余りあります。あの殿下から逃げたくなるのは、当然だと思いますわ」
「ラーナ様……」
「でも、ごめんなさい。他のお二方はともかく、わたくしは殿下の婚約者には
侯爵令嬢のラーナ様が? と、私もシドもきょとんとした顔になる。今から新たに王太子妃候補を探すとすれば、ダントツでラーナ様が有力なのに。
彼女は少し伏し目がちに、自分の身の上を話し始めた。
「わたくしは、
今はローゼリア王国の
「ローゼリア王国のお城には、周辺国から預けられた
つまり、クラーク侯爵家の養女であり異国の王女であったラーナ様が、この国の王太子妃になるのはまずいと。そんなことになれば、あちらの国から何かしらの要求がある可能性は
小国だからとんでもない要求はしてこないだろうけれど、国同士の力関係なんて数十年で変わる。今後、アーバンがどこか
「それにわたくしは、いずれクラーク侯爵家のご子息に
「そうですか……」
「この茶会の意図はすぐにわかりました。やんわりと辞退することも考えましたが、ヴィアラ様なら人質として送られたわたくしの事情をご理解いただけるかと思いまして」
私なら理解できるって、どういうこと?
小首を
「マーカス公爵家にも、わたくしと同じように引き取られた他国の人質がいると義父から聞いたのですが、ヴィアラ様はご存じないのでしょうか?」
何それ、知らない! うちに異国の王子様やご令息っぽい、高貴な感じの人はいたかな?
私はシドを振り返り、そんな人物に心当たりがあるかと尋ねた。
「ねぇ、シド。うちに王子様っぽい
「う〜ん、王子様っぽいヤツはいません」
私の頭には、あの人相の悪い『
誰一人として、王子様に結びつかない。
「そうよね。高貴な雰囲気の人なんていないわよね。そもそも異国から来た人質なんてそんな訳ありキャラがいたら、さすがに私の耳にも入るだろうし」
「いや、お嬢。昔から言いますよね『訳ありを隠すならマフィア』って」
うん。それは、木を隠すなら森の中では?
苦笑いになる私に、シドは
「えー、いっそ訳あり選手権でもやりますか? だいたい、うちってお嬢とイーサン様以外はほぼ全員訳ありなんですけれど」
「それ、誰も得しないから。だいたいうちみたいな家で、
素性なんて大きな問題ではない。そんなことを気にしたことなんてなかった。
私たちの会話を聞いたラーナ様は目を丸くしていたけれど、人質として連れてこられた子どもが、貴族家に引き取られることはよくあることだと教えてくれた。
「義父によると、これまで七人ほど私のような者がいたそうです。貴族家の
当然、何年かで自国に
ラーナ様はにこりと微笑むと、話題を変える。
「ところで話は殿下のことに戻りますが、アネット伯爵令嬢はわたくしと同じクラスですの。彼女はかなり権力欲が強いと耳にしておりますので、ヴィアラ様のご期待に沿えるかもしれませんわ。今日は具合が悪くて残念でしたけれど、またの機会に個人的にお誘いしてみては?」
そういえば期待の星はアネット様だった。
私はしっかりと頷いて、ラーナ様からのエールを受け取った。
「シドさんはずっとマーカス公爵家におられるお方でしょうか? ご当主であるお兄様が
扉を開けたシドは、ラーナ様に向けて
「俺は先代様に拾われた身ですから、子どもの頃からずっとマーカス公爵家で育ちました。
「まぁ、ご
「ご想像にお任せします」
おもいきり外向けの営業スマイルを作るシド。それは何か隠したいことがあるときに見せる顔だった。
私は二人のやりとりとじっと
視線に気づいたラーナ様は、私を見てにっこりと微笑んだ。
「またお会いしましょう、ヴィアラ様。朗報をお待ちしておりますわ」
「ええ、本日はありがとうございました。ラーナ様」
去っていく姿もまた、気品があって美しい。
その背を見送ると、私は隣に立つシドを見て何気なく言った。
「そんなにお父様に恩を感じていたのね……。
シドを拾ってきたのは
そう思うのも無理はない。事故で亡くなったときは、守れなくて無念だっただろうな。
「そこまでうちへの恩義を感じて、ずっと尽くしてくれているなんて。本当にありがとう」
しみじみと感傷に
「お嬢、もう少し人の気持ちっていうものをわかってくださいませんかね」
「え、
大きなため息を吐いた彼は、ポリポリと右手で頭を
まるで私に呆れているみたいな反応だ。
けれど、シドはすぐにいつもの明るい顔に戻りこれからのことを口にする。
「さ、もうこの話は終わりです。
「誘き出すって言い方やめて?」
私は軽く身だしなみを整えると、シドと
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