第23話 私は聖女ではありません!

アイラン様が後処理に向かってから、1ヶ月が経った。最初はアイラン様に会えなくて寂しかったが、最近ではだいぶ慣れてきた。



それに、オルビア様やフェアラ様と過ごすのもまた楽しい。王宮だけでなく、王都の街に買い物に行ったり、海に行ったりと、充実した生活を送っているのだが…。



どうやら、戦争に参加した兵士たちによって、私の話があちこちに広まってしまっているようだ。そのせいで、街に出るたびに



「聖女様!フェミニア王国を助けていただき、ありがとうございました!」


「聖女様、どうかずっと我が国に」



など、なぜか私は聖女にされている。どうやら、攻撃魔法を使って敵国の聖女を倒した為、私を聖女と勘違いしているようだ。



そもそも、私は聖女ではない。戦争とは言え、沢山の人の命を奪ってしまったのだ。それに、私は聖女が大っ嫌いだ!正直、聖女と言われると嫌な気持ちになる。



そんな日々を過ごしていたある日

「シャーロット、先ほど伝達の者が来て、後3日程度でお兄様たちが帰国するとの事よ」



「まあ、本当ですか!やっとアイラン様が帰ってくるのですね」


早くアイラン様に会いたいわ。



「お兄様たちが帰ってきたら、改めてパレードをやることになっているの。あなたも、国を救った救世主として参加してね!」



「あの…オルビア様。私、何かしなければいけないのですか?」


ただでさえ最近聖女だ聖女だと言われ、げんなりしているところだ。なのに、まだ何かしなければいけないのかしら?



「う~ん、よくわからないけれど、馬車で街を回るだけだと思うけれど。とにかくお兄様たちが帰ってこないと分からないわ。きっとパレードでもシャーロットは大人気よ!」


ニコニコ顔のオルビア様。私はまた、聖女と叫ばれそうで嫌なのですが…




そして、ついにアイラン様が帰国する日を迎えた。


「ただいま!シャーロット!会いたかったよ!」


到着するや否や、アイラン様にギューッと抱きしめられる。久しぶりに感じるアイラン様の温もり。なんだかとても落ち着くわね。



向こうでは、オルビア様とアルテミル様も抱き合っている。



「さあ、色々と話したいことがある。早速で悪いんだが、客間に集まってくれるかい?」



アイラン様にエスコートされ、客間へと向かう。私とアイラン様、向かいにはアルテミル様とオルビア様が座った。あら?今回は4人だけなのね。



「早速だが明日、戦争に勝利したことを記念して、パレードを行うことになった。もちろん、シャーロットとオルビアにも参加してもらう。今回は馬車を2台準備した」



「2台ってことは、お兄様たちも馬車に乗るの?」


「そうだ、何か問題でもあるのか?」



「別に無いけれど…普通男は馬でしょう」


小声でオルビア様が呟く。そう言えば、昔ゾマー帝国のパレードを見に行ったことがあるが、確かに男の人は馬に乗っていたわね。




「あと、今回のパレードではシャーロットにも、スピーチをしてもらおうと思っている」


ん?ちょっと待って!スピーチって何をしゃべればいいの?


「あの、アイラン様、私のスピーチは不要なのでは…」



「何を言っているんだシャーロット。君は今回の戦争で、我が軍を勝利へと導いた女神だ!国民も君のスピーチを望んでいる!これは決定事項だ!」


物凄い勢いで詰め寄られた。仕方ない。とりあえず、一言二言話せばいいよね。




コンコン


「話は終わった?アイラン、明日のパレードの件で、色々と決めなきゃいけない事があるんだけれど、いいかな?」



アイラン様を呼びに来たのはファビオ様だ。


「わかった、今から行くよ!それじゃあシャーロット、何を話すか考えておいて」


私の頬に唇を落とすと、アイラン様はアルテミル様を連れて出て行ってしまった。それにしても、何を話せばいいのかしら!なんだか気が重いわ!





そして、パレード当日。


なぜか私は白いドレスに身を包んでいる。これは、ウエディングドレス?それにしては少し地味な様な…



もしかして、パレードに参加する女性の衣装は白と決まっているのかしら?これからは、少しずつフェミニア王国のルールを覚える必要があるわね。



コンコン

「シャーロット、準備は出来た?あら、素敵な衣装ね。まるで聖女みたい!」



あれ?オルビア様は水色のドレスを着ているわ。何で私だけ白なのかしら?それに、今聖女って言ったわよね!なんだか嫌な予感がする!



「さあ、シャーロット、そろそろパレードが始まるわよ。早く行きましょう」



オルビア様に手を引かれ、王宮の門へとやって来た。フェミニア王国のパレードは、まず王宮を出発し、王都を一周した後、王都の広場で王族がスピーチをするらしい。このスピーチの時に私も軽く挨拶をするようだ。



「シャーロット、なんて美しいんだ!あまり民には見せたくないが、致し方ない。さあ、馬車に乗ろう」



王宮の門へと向かうと、私たちに気が付いたアイラン様が飛んできた。そしてアイラン様にエスコートされ、馬車に乗り込む。今回使う馬車は、天井のないタイプ。主に金を基調としており、周りにはフェミニア王国らしく、真珠が散りばめられている。



馬車は2台準備されており、もう1台にはオルビア様とアルテミル様が乗っている。そして、馬車が動き出した。王宮の門を抜け、街が見えて来た。この位置からでもわかるくらい、沢山の民が沿道に集まっている。




「「「「キャー!!シャーロット様~~」」」」



「「「「聖女様が来たぞ!聖女様!!!」」」」



あちこちから、民たちの声が聞こえる。だから!私は聖女じゃないんだってば!



「シャーロットは大人気だな。さすが俺の婚約者だ!」


ニコニコのアイラン様。



街中どこに行っても、民たちから大きな歓声が飛ぶ。なぜか私は聖女にされてしまっているのが、どうしても気に入らない。



1時間程度かけて街を回った後は、王都の中心にある大きな広場で馬車は停まった。既に沢山の民たちが集まっている。



まず最初にスピーチを行ったのは、アイラン様、そして王女のオルビア様。そしていよいよ私の番だ。



本当は一言二言話すだけにしようと思っていたのだが、気が変わったわ!




「次は我がフェミニア王国を救った、聖女、シャーロット様です」


司会のファビオ様が無駄に盛り上げてくれる。民たちの盛り上がりも最高潮だ。



私は壇上へと上がった。



「皆様、本日はお集まりいただき、ありがとうございます。まず、皆様の誤解を解かせていただきたいです。私は、聖女ではございません!」



私の言葉で、民たちが騒めく。アイラン様や司会のファビオ様も、口をポカンと開けているが、まあ無視しておこう。



「そもそも、聖女は邪悪なものを封印し、人々を幸せへと導くとても尊い存在です。でも、私は自分が持つ魔力により、沢山のガリレゴ軍の兵士を手に掛けました。きっと、彼らにも大切な家族や、守りたい人がいたことでしょう。そんな私が、どうして聖女と名乗れるのでしょうか。


私は魔力のある国の出身者というだけで、聖女ではありません。でも、もしこの国が他国に攻められ、危機的状況に陥ることがあれば、もちろん今回の様に全力で戦います。


ですから、私の事を聖女と呼ばず、ただのシャーロットとして受け入れていただければ幸いです。どうぞ、今後ともよろしくお願いいたします!」




挨拶が終わると、深々と頭を下げた。シーンと静まる会場。正直この沈黙は辛いが、言いたいことは言い切ったから別にいいわ。



そう思っていたのだが、次の瞬間!



「「「「パチパチパチパチ」」」」


溢れんばかりの拍手が沸き上がった。



「シャーロット様、なんて謙虚なお方なの!」


「シャーロット様、あなたが何であれ、我が国を救ってくれたのには変わりはありません!」


「「「そうだ!」」」



物凄い歓声が上がった。


最高に盛り上がる中、再び壇上に上がり話し出したのはアイラン様だ。オルビア様とアルテミル様も一緒に壇上に上がってきた。



「皆の者、盛り上がっているところ申し訳ないが、報告したいことがある。ガリレゴ王国との戦争に勝利したということで、我ら王族も結婚することが決まった」



「ウワーーー」


さらに盛り上がる民たち。まさか、ここで婚約発表をするつもりなのかしら。そう、そのまさかだった!



「第一王女であるオルビアは、プライス公爵家の嫡男、アルテミルと。そして、国王である私、アイラン・ロス・ファミニアはシャーロットとそれぞれ結婚する。皆の者、まだ若い我らではあるが、どうか温かい目で見守って欲しい!」



アイラン様の言葉を聞いた民たちは、また盛り上がる。



「おめでとうございます!!」


「王族のお2人にはずっと辛い思いをされてきた!どうかお幸せに!」




どうやら民たちも祝福してくれている様だ。でも、婚約発表ってもっと時間をおいて、厳粛な雰囲気で行われるものだと思っていたけれど…。


現に、ゾマー帝国で王太子殿下と婚約した時は、もっと厳粛なものだったし。国によって違うのね。



こうして、私は無事聖女ではないことを民たちに理解してもらうと共に、正式にアイラン様の婚約者として皆に認めてもらえたのであった。





~あとがき~

ーパレード後の民たちの様子ー


「今日のパレードは素晴らしかったな!特に、シャーロット様。見た目が美しいだけでなく、とても謙虚で素敵な方だ」


「本当よね!陛下が気に入るのも無理はないわ。まるで女神様みたい!」


「確かにな!他国では自分たちを救ってくれた女神として、銅像まで建設中らしいぞ」


「何だって!そもそもシャーロット様は我がフェミニア王国にいらっしゃるお方だ!こっちも負けていられん!早速シャーロット様の銅像を作る署名活動を行おう」


こうしてシャーロット銅像計画が民たちの間でひそかに行われようとしており、アイランやオルビアもそれに賛同したのだが、それを知ったシャーロットが全力で止めたとか…

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