第11話 私も戦争に参加したいです
翌日、オルビア様にお願いして、アイラン様とアルテミル様を呼び出してもらった。私は、この国を出ないと言う事、そして聖女と戦うと言う事を伝えるためだ。
今回オルビア様が準備してくれた部屋は、昨日アイラン様に国を出るように言われた会議室だ。
私が会議室に入ると、既に皆集まっていた。
「遅くなって申し訳ございません。今日は、皆様にお話があって集まっていただきました」
私は最初に頭を下げる。
「本題に入る前に、私がなぜこの国に来たのか、私の身に何が起こったのか、お話しさせていただいてもよろしいでしょうか?」
そう、私はここに居る皆に、私の過去を話そうと決意したのだ。
「私のかつての名前は、シャーロット・ウィルソン。元公爵令嬢で、ゾマー帝国の王太子の元婚約者です。そして…死刑囚でもあります」
「死刑囚…」
私の言葉に、3人は目を丸くする。
「はい、私は公爵令嬢として何不自由ない生活を送っておりました。8歳で婚約した王太子との仲も、良好だったと私は思っておりました。しかし、14歳で学院に入学してから、状況は一変しました。聖女と名乗る男爵令嬢が現れたのです。彼女は、私の父や兄、王太子までも味方につけ、私を悪者に仕立てたのです。そのせいで、父や兄、婚約者からは、酷い暴力と暴言を受けるようになったのです」
正直話すのは辛い。私はこぼれ落ちそうになる涙をぐっとこらえた。
「母は私を産んだせいで亡くなりました。そのことを責められ、殴られたこともありました。次第に食事も与えられなくなりましたが、私をかばってくれた使用人たちによって、隠れて食事を摂ることができました。それに、私を唯一かばってくれた王妃様の存在もあり、何とか生きていられたのです」
そう、あの時は本当に辛かった。それでも、必死に生きたのだ。
「でも唯一の味方だった王妃様も、重い病に倒れてしまいました。そして、決定的な事件が起きたのです。私は聖女を害したという無実の罪で父からは勘当され、王太子からは婚約破棄を言い渡されました。そして、次の日には公開処刑も決まったのです」
「そんな…あんまりだわ」
オルビア様が目に涙を浮かべて怒っている。アイラン様とアルテミル様も怒りで顔が歪んでいる。私の為に、皆ありがとう。何とか自分を奮い立たせ、私は話を続ける。
「冷たい地下牢の中で私は考えたのです。明日惨たらしく殺されるくらいなら、魔力を放出して自らの命を絶とうと。私達魔力持ちは、魔力を失うと生きていけませんから。だから私はあの日、一気に魔力を放出したのです。自ら命を絶つ為に…」
すすり泣くオルビア様。私もついに涙が頬を伝う。いけないわ。まだ泣いては!私は涙を拭うと、まっすぐアイラン様を見つめる。
「一度は失ったと思ったこの命を、あなた達が助けてくれました。私はこの命を、アイラン様とオルビア様の為に捧げたいと思っています。だから、私はこの国を出るつもりはありません!たとえなんと言われようと、恩人を捨てて逃げるなんて恥ずかしいマネは私には出来ない!」
「シャーロット、君の気持は嬉しいが、俺は君を死なせたくはない。そんな辛い思いをしたのなら、なおさら生きて幸せになって欲しいんだ」
アイラン様は私の肩に手を置くと、まっすぐ見つめてそう言った。その目には、悲しみがにじみ出ている。
「さっきも言いましたが、私は本当なら死んでいたのです。私は何があってもこの国を離れるつもりはありません。たとえなんと言われようが、この気持ちは変わりません。それでも国から出て行けとおっしゃるのなら…」
私は懐から果物ナイフを取り出し、アイラン様に渡した。
「アイラン様とオルビア様に助けられたこの命、アイラン様の手で幕を下ろしてくださいませ。私はこの国を離れて1人のうのうと生きるつもりはございません。さあ、選んでくださいませ。今ここで私の人生の幕を下ろすか、共に戦うか!」
逃げるくらいなら、ここで私の人生の幕を下ろそう!アイラン様に殺されるなら、本望だ。
カラーン
ナイフを床に落とすアイラン様。
「君って人は…分かった。俺の負けだ!そこまで言うなら、ここに残ってくれても構わない。ただし、国を出ていきたくなったら、すぐに出て行ってもらって大丈夫だ」
諦めたように呟くアイラン様。辛い決断をさせてしまって、ごめんなさい。でも、これだけは絶対に譲れないの。
「やったわ!これでシャーロットもここに残ってくれるのね!」
嬉しそうに抱き付くオルビア様。
「オルビア!お前の差し金だったのか!なんてことを…」
「アイラン様、それは違います!私は始めからこの国を出るつもりはありませんでした!オルビア様に何か言われた訳ではございません」
オルビア様に詰め寄ろうとするアイラン様に、はっきりと伝える。
「それから、私はこの戦争でアイラン様もオルビア様も死なせるつもりはありません!アイラン様、この戦いに勝つ為に、少し話をさせていただいてもよろしいですか?」
「シャーロット、気持ちは嬉しいが、さすがにそれは無理だ!あの国には聖女がいるからな」
悲しそうにつぶやくアイラン様。
「そうでしょうか?私はそうは思いません。そもそも、ガリレゴ王国に居る聖女と名乗る女性は、本当に聖女なのでしょうか?」
「どういうことだ?シャーロット」
「昨日、私なりにガリレゴ王国の事、聖女の事を調べたら、あることに気づいたのです!本来聖女は、温かい聖なる光で、邪悪なものを封印することが出来る尊い存在です。しかし、ガリレゴ王国の聖女は、雷・炎・氷などを操ると記載されておりました。雷や炎は、攻撃魔法によるものだと私は推測します」
「では、ガリレゴ王国に居る聖女は、聖女ではないのか?」
「おそらく」
「それでも、頭上から雷を落とされれば、俺たちは一溜りもないぞ」
アルテミル様が間に入ってきた。
「確かにそうですね。ならば、その雷や炎を防げるとしたらどうでしょう?」
「君は、何を言っているのだ?」
アルテミル様が首を傾げる。
「申し訳ございません。少し回りくどい言い方をしてしまいましたね。結論から言うと、ガリレゴ王国に居る聖女は、私と同じ魔力持ちだと推測します。ですので、聖女は私が引き受けます」
「なんだって!そんな危険な場所へ君を連れて行けない。それも、聖女と戦わせるなどできるものか!」
物凄い勢いで私に詰め寄るアイラン様。
「アイラン様、多分想像できないかもしれませんが、私は小さい時から自分の身を守る為、ありとあらゆる魔法に関する知識を身に付けてきました。もちろん、攻撃魔法や防除魔法も含めて。聖女と戦うくらい、どうってことありません。心配しないでください」
「しかし…」
渋るアイラン様。
「アイラン、確かにファビオを助けた時の魔法は素晴らしかった。どうせ死ぬなら、ここはシャーロットちゃんに賭けてみるのも一つの手だ」
「そうよ、お兄様!シャーロットがここまで調べて、戦うと言ってくれているのよ!無下にしたら、逆にシャーロットに失礼よ!」
アルテミル様とオルビア様が援護射撃をしてくれた。これはありがたいわ。
「わかった。では、聖女はシャーロットに任せよう」
渋々了承するアイラン様。
やったわ!
待ってなさい聖女!私が叩きのめしてやる!
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