第34話 カルロ様とフェルナンド殿下の仲を改善させたい

貴族学院に入学して半年が過ぎた。私は相変わらずリリーやマリア、カルロ様と楽しい学院生活を送っている。



リリーもフェルナンド殿下と順調に交際を続けているようで、2人ともとっても幸せそう。



でも人間ってどんなに幸せでも、それ以上のことを求めるものよね。


そう、今の悩みは、カルロ様とフェルナンド殿下の仲が相変わらず悪いという事。


まあ、正式にはお互い無関心といった方が良いのかもしれない。


ちなみに漫画の世界では、エイリーンという悪役を兄弟が一致団結して立ち向かうという感じだったので、いつの間にか仲良くなっていた感じだ。



でも今のエイリーン(私)は、自分で言うのも何だが、漫画のエイリーンとはかけ離れている。そのせいもあってか、2人が協力するなんてことはないのだ。



このまま2人の仲は改善されないのかしら…


「はぁ~」


私はついため息が出てしまう。


「今度はどうしたの?エイリーン」


向かいに座っているマリアが声をかけてきた。


ちなみに今は、放課後のティータイム中。


「エイリーン様がため息なんて、珍しいですわね」


リリーも心配そうにこっちを見ている。


「悩みというほどの事ではないんだけれど…実は、カルロ様とフェルナンド殿下の関係を、何とか改善できないかなって…」



「それ、私も思っていたの。フェルナンド様は、俺にはリリーがいればいいって言ってるけれど、なんだか寂しそうで…」


リリーも同じ気持ちだったのね。


「じゃあ2人で協力して、殿下たちの仲が改善できるようにしたら?例えば、お茶に誘うとか」



マリアが提案してくれる。



「それ、いいかも。じゃあ、来週4人でお茶会をしましょう。私はフェルナンド様を誘うから、エイリーン様はカルロ殿下をお願いね」


リリーもその誘いに乗るようだ。


でも…カルロ様とリリーって、未だにめちゃくちゃ仲悪いのよね…


大丈夫かしら?



私は不安を抱えながら、カルロ様を誘うことにした。



「カルロ様、来週なんだけれど、リリーとフェルナンド殿下と4人でお茶会をすることになったんだけれど、来てくれる?」



「え、ニッチェル嬢と第二王子とかい!エイリーン、なぜあの2人と僕が一緒にお茶を飲まないといけないんだい。いくらエイリーンの頼みでも、それは聞けないよ」


やっぱり…


でもそう簡単に諦めちゃだめよね。


「でもせっかくだから…」


「エイリーン!何度頼まれても無理なものは無理だよ。もうこの話はおしまいにしよう!」


カルロ様に強い口調で言われては、これ以上何も言えない。



ごめん、リリー。


私失敗しちゃった…


リリーになんて言おう…


私はリリーにうまく誘えなかったと言えないまま、週末を迎えた。


週末は王妃様からお茶に誘われているため、王宮に向かう。


「エイリーンちゃんよく来てくれたわね」


王妃様はいつもと同じ、穏やかな笑顔で迎えてくれる。


「王妃様、今日はお茶に誘っていただき…」


私が挨拶をしようとしたのだが


「ああ、そんな堅苦しい挨拶良いから、座って」


王妃様にさえぎられたので、そのまま席に着く。


しばらくは雑談を楽しんでいたが、急に王妃様が真剣な表情で話し始めた。


「あのね、エイリーンちゃん、護衛騎士に聞いたんだけれど、カルロと第二王子の仲を取り持とうとしてくれてるって本当?」




え~~、王妃様情報早!


ていうか、その情報どこから仕入れたの?


護衛騎士って、まさか盗み聞きしてたの?



王妃様はまっすぐ私を見つめている。いけない、とにかく謝ろう。



「勝手なことをして申し訳ございません。確かに私はカルロ様とフェルナンド殿下の仲を取り持とうとしております」



素直に認めてみた。怒られるかな?


「怒っている訳じゃないのよ。逆に嬉しいの。そもそもカルロと第二王子の仲がこじれたのは、元をただせば私のせいなの!」



「王妃様の?」


どういうことだろう。



「私ね、エイリーンちゃんがカルロと婚約するまで、本当に嫌な女だったの。カルロにはいつも酷いことばかり言っていてね…よく第二王子を引き合いに出して、罵声を浴びせていたの…」



私は目を丸くした。


まさしく漫画の世界の王妃様そのものだったからだ。


さらに話は続く。



「それにね。第二王子のことも毛嫌いしていたわ。当時の私はね。第二王子の母でもあるメイドにシリル様を奪われたと思っていたの。だから第二王子にも酷いことをたくさん言ったわ。本当に私は最低な人間だったの」


王妃様は、涙ぐみながらもなんとか言葉を絞り出している。


私は王妃様にハンカチを渡した。



「ありがとう、エイリーンちゃん。私ね、第二王子の瞳の色も嫌いだった。あの赤い瞳は王族だけに引き継がれる色。シリル様の色なの。“カルロは引き継がなかったのに、何であの女の子供が引き継ぐのよ”ってね。だからよく瞳の色もバカにしたわ」



「でも…今はね。シリル様と同じ瞳の色をした第二王子の寂しそうな顔を見ると、胸が締め付けられるの…まるでシリル様が苦しんでいるみたいな感じがして。本当に私、自分勝手よね」


王妃様が寂しそうに笑う。


「エイリーンちゃん、こんな私の事…軽蔑するわよね」


そう言うと、王妃様はついに俯いてしまった。



「そんなことはありません。確かにちょっと酷いとは思いましたけれど、今の王妃様はそのことを後悔していらっしゃるんですよね。人は誰でも間違いを犯すことはあると思います。でも、それをしっかり反省し、改善しようとしている王妃様は素敵ですよ。少なくとも、私もカルロ様もそう思っています」


ちょっと生意気だったかしら?


でも、今の私にはこれくらいしか言えないわ…


「ありがとう、エイリーンちゃん…」


そう言うと、王妃様はついに泣き出してしまった。



「エイリーンちゃん、どうかカルロと第二王子の仲を取り持ってあげて。私もできることがあったら協力するわ」


王妃様は泣きながら頭を下げる。


「王妃様、頭を上げてください。私もどこまで出来るかわかりませんが…出来ることはやってみます」



すでに、ティータイムの誘いは失敗しているけれどね。


「ありがとう、エイリーンちゃん…」



王妃様は泣きながらも嬉しそうに笑った。


この人もきっと今まで苦しんできたんだろうな…


王妃様の為にも、ここは一肌脱がないとね。


そう思っていると


「バタン」


ドアが大きく開く。



「やっぱりエイリーンおねいちゃま、いらしていたのね」



声のする方を向くと、そこには3歳になられたばかりのソフィア王女が。


ソフィア王女はなぜか私にかなり懐いていて、王宮に来るたびに必ず捕まる。


私も可愛いソフィア王女にメロメロだから、嬉しいんだけれどね。



「王女様、いけません!勝手に入っては」



ソフィア王女の教育係が慌てて連れ戻そうとするが、ソフィア王女はすかさず王妃様の後ろに隠れた。


「あれ?おかあさま、ないてるの?どうしたの?どこかいたいの?」



ソフィア王女が心配そうに尋ねる。


「大丈夫よ、ソフィア。ありがとう、何でもないのよ」


王妃様も優しく微笑む。


「じゃあエイリーンおねいちゃまとあそんでいい?」



ソフィア王女は赤い瞳をキラキラ輝かせ、王妃様に聞く。


その顔がたまらなく可愛い!


「いいわよ。エイリーンちゃん、いいかしら?」


「私は大丈夫です。ソフィア王女、今日は何して遊びましょうか?」


私が訪ねると、それは嬉しそうに私の元へ走ってきた。


「じゃあきょうは、おにわでかくれんぼをしましょ。」



そう言うと、ソフィア王女は私の手を取り、早速庭へと引っ張っていく。


私は王妃様に頭を下げるとソフィア王女に連れられ、お庭へと向かった。



そういえば、ソフィア王女ってどことなくフェルナンド殿下に似ているのよね。



瞳の色が同じだからかしら!


ソフィア王女にもいつかフェルナンド殿下と仲良くなってくれると嬉しいな。


そのためにも、まずはカルロ様とフェルナンド殿下の仲を何とかしなきゃね。


そう意気込むエイリーンであった。

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