秘密の主従契約~告白にフラれた僕はクラスメイトの美少女に弱みを握られイチャラブすることを誓います~
佐伯春
第1話 どうしようもない僕に転機が舞い降りてきた
7月、夏休み前の浮ついた平日、天気は曇り時々大雨。
こんな景気の悪い日に告白した僕が馬鹿だったんだ。
今回ばかりはマジのマジ、小学校からの幼馴染でずっと言いそびれていた恋心を打ち明けるべき相手、
「え?ごめん、アタシ陸上部の竹下先輩と付き合うことになって―――」
成程、今度は陸上部か。
一年の春先に告白した子はバスケ部で、中学のあの子はサッカー部、小学校の小町は担任の先生って言ってたな。
「なんで僕じゃないの?」
心底不思議そうな顔で尋ねたんだと思う、釣られてあっちもポカンとしてた。
「え?いやアタシ先輩好きだし、先に告られたから―――」
「もし!!!僕の方が先だったら!?」
「いやいやないない!
ゲラゲラ腹を抱え笑うスポーツ少女。
この曇り空の下でも小麦色の肌は向日葵を思わせ、短めショートの赤茶髪はまさに正統派ボーイッシュJKという出立。
あの頃よりも膨らみを帯びた胸とか尻に目がいってしまうのは男の性で、カッコつけて意識を向けないようにする。
「マジで一度も??」
「親友だとは思ってるよ!でも旭さ~ナヨナヨしてんだもんね~」
ズキリと図星が降ってきた。
「クラスでもいつも陰キャしてるしさ、少しは友達作れたの?大丈夫?空気みたいじゃない?」
割と真剣な眼差しで心配され胸がグルジッ!となるが日和るわけにはいかない。
僕は一世一代の大勝負に挑んでるんだ、夏祭りに瑠璃華が浴衣姿でわたがしを頬張る瞬間を拝めないことには引き下がれないんだ、幼馴染として。
「お願い!どうしても真剣交際したいんだ!!」
「初対面からずっと好きでしたぁぁぁ!!!」
大きく手を突き出し頭をこれでもかと下げるも、
「いや無理なもんは無理!!」
ぴょんぴょん飛び跳ねる瑠璃華。
するとどこからともなく男の声が聞こえる。
「おーいルリカ~」
「あっ!先輩の声!」
体育館裏に響く野郎のダミ声。
その時点で僕は吐き気がしたのだが、奴さんの身形を見て更に絶望に突き落とされる。
「うーすっ」
ド金髪にピアス、陸上部らしくスマートで細身な体、しかし羽織ったパーカーからでも分かる筋肉のどよめき。
(うっ、チャラ男・・・)
今迄フラれても相手がまだ爽やか系だったから許せたのにこの仕打ちはナニ?
「おせーから探しにきたぞ、誰それ?もしかしてナンパ?」
「ひっ!?」
自分よりも背の高いチャラ男に迫られ声をあげてしまう。
助けを彼女に求めると親友から負け犬辺りにまでランクダウンされたであろう軽蔑の眼差しが突き刺さった。
「せーんぱい!コイツはなーんにも関係ないんで早く行きましょ♪」
一転、キャピったようにイチャイチャし始めるアベック、苦しいです。
「それならいいけどよォ、つかお前マジ可愛いな、今日もウチ来いよ」
「え~いいんですか~??」
「おう、またマジ○○○○見せてやるから」
「えーいいんですか!?受験勉強もあるのに!?」
「(マジ○○○○!?めっちゃ気になる!!)」
情報過多で脳の処理が追いつかず電池切れのロボットみたいに佇む旭。
「んじゃ行くか~このあと雨降るから傘一緒に入ろうぜ」
「えっ!?それはちょっと恥ずかしいけど・・・先輩がいいなら///」
「(ぐっ、その反応だけはしてほしくなかった)」
馬鹿ヤンキーギャルムーブから先輩には乙女の一面見せちゃうよ系後輩ムーブ、それがないからまだ耐えられたのに。
「そゆことだから、また明日ね!」
瑠璃華は先輩と共に去ってしまった。
僕は暫く放心し、体育館の壁際の段差に腰掛け蹲る。
(ぼっ)
(僕の方が先に好きだったのにーーーーーー!!!)
負け犬、積み重ねた歴史に嘆く。
さらば愛しの幼馴染、さらば愛しのボーイッシュ短髪笑った時のえくぼが可愛いですね幼馴染。
そして、全てのカップルに呪いあれ。
♦♦♦♦
―――――――――
――――――
―――
―
何だか五月蠅いし、体が冷える。
目を覚ますと大雨が周囲一帯に降り注いでいて、涙のシャワーに揺り起こされたんだと気が付いた。
(寝てたのか?)
この学校の片隅で情けなく体を丸めおめおめ泣いてたら、泣き疲れて眠っていたらしい。
(ヤバ、ダサすぎてまた泣く)
かわいくない高二男子が泣き始める。
ジ〇リも真っ青な泣きじゃくりを晒し、嗚咽を日本中に吹き荒れる嵐の波に紛れ込ませ感傷に浸る。
雨足は一層強まり完全に帰るタイミングを見失った僕は無気力に雨粒が跳ねる水溜まりを眺める。
スッ
すると突然、音もなく影もなく頭上に帳が降ってきた。
(ひっ!?)
雨の日、夏といえばそうお化け。
都市伝説に巻き込まれたのかと思い怪異の方に目を向けると、よかったちゃんと足はある。
そいつは濡れていない段差部分に腰を下ろすと、ふっとこちらを見てきた。
(同じクラスの・・・
ミステリアスな眼光、緑眼の瞳はエメラルドを思わせキリリとした眼差しがカッコよくも妖しく煌めいている。
特注の人形のような造形をした輪郭とパーツ一つ一つに価値がありそうな顔立ち。
お嬢様結びにウェーブのかかったポニーテールという上品な髪型、青黒い深海色に意識が吸い込まれてゆく。
不敵に微笑んだ彼女は何も言わずに傘を差し出し続けた。
「あっ・・・」
理解した僕は遅れて反応し、高そうなそれを受け取りやっと口を開く彼女。
「・・・懲役5年」
「は?」
意味が分からず目が泳ぐ。
「貴男が私に傘を差し出させてた時間、そのぐらいの罪には該当するでしょ」
「えぇ」
「しかも泣き腫らした醜い顔、まるで捨てられた子犬のよう」
「ですが私、子犬は好きですわ」
「???」
何?逆ナン?ドッキリ?
「貴男、お名前は?」
「えっと
「ふぅん、自分どうして泣いてたん?」
「(え?いきなりフランク?)」
「いや実は、恥ずかしながらフラれまして」
「奇遇やね、実はウチも今フッたとこなんよ」
「いや奇遇じゃないですし何ですかその喋り方」
「気を遣っただけやで」
「(変な人だなぁ、噂通り)」
彼女は美少女だがミステリアスな側面を併せ持つ高嶺の花と呼ばれる存在。
「私、今まで泣くほど男子をフッたけど、泣いた人はいなかったわ」
「羨ましいわ、男を泣かせる女子がこの学校にいるだなんて」
「変な悔しがり方しないでください!」
降り頻る雨ニモマケズ、小さな空間に寄り添いながらやりとりする二人。
「それで旭、ちょっとしたゲームをしない?」
「ゲーム??お金なんてないですよ」
「でしょうね、でも貴男は私の貴重な時間を今この瞬間にも奪っているのよ、分かる?」
「(何てヤツだ・・・)」
まさかこんな傍若無人な人だっただなんて。
「何も貴男のことを知らないで話しかけたわけじゃないの」
彼女は機械的に口を動かしながら目を背けることなく僕の瞳に語り続ける。
「なんちゃら旭、年は16で誕生日は8月31日、両親は平凡なサラリーマンと専業主婦、妹は高一で同じ高校、兄が嫌いで本当は好きなんてこともない」
「(ホンマコイツ失礼なやっちゃなぁ~)」
大体今さっき自己紹介したのに名字は忘れてるし、その癖プロフィールはちゃんと覚えてるし・・・というか何で知ってるんだよ。
「小中高の成績は下の中、毒にも薬にも笑い話にもならない点数をキープ、体育も苦手で二人組は作れない、女子からの評価はそもそも誰?といった感じ」
「告白は3度ほどフラれ、今日で4度目、記録更新おめでとう」
「趣味はゲームに漫画と何の面白みもなく知識は偏って陰惨」
「対戦系のゲームはPTが組めないしSNSもやっていないので固定がいない」
「(詳しすぎだろ!!コイツ絶対僕のこと好き!!)」
「さて、そこでゲームに関する問題です、じゃじゃん」
無機質な喋り方からオルゴールのような暖かみのある音色を奏でるから脳がバグりそう。
「私は貴男にどんなゲームを提案しようとしてますか?」
両手両足を抱え込みジッと注視してくる聖良乃、その姿は悔しいが愛らしい。
「ええと・・・」
とりあえず考えるが全然分からん。
「わかりませんはナシ」
「ぐっ」
「ヒントは空気みたいな貴男にピッタリなこと」
「・・・サンドバッグですか??」
「正解と言いたいところだけど惜しい」
「(惜しいんかい)」
「あっ、もしかして固定組んでくれるんですか?」
「それも面白そうね、でもゲームはやってまテン」バツ
「(あれ?もしかして面白い人?)」
「うーん、ゲーム、空気、僕に出来ること・・・」
「もしかして罰ゲームで友達になるとかそういう」
「ピンポンピンポーン!」
乾いた拍手が虚空に虚しく木霊する。
「っ、堂々とそういうことするんですね」
そうならばガッカリだし、幻滅だ。
「正確にいうとちょっと違う」
彼女はビッと人差し指を立て、そこに目がいく。
「旭、私と主従契約を結ばない??」
その時、どうしようもない僕に転機が舞い降りてきたんだ。
♦♦♦♦
今回はここまでです、読んでいただきありがとうございます。
ほぼ毎日更新でやろうと思いますので、明日もお楽しみに。
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作者Twitter https://twitter.com/S4EK1HARU
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