第20話:第2の怪人現る

東京郊外のショッピングモール、時刻は13時22分。春の暖かな日差しが窓から差し込み、行楽日和の中で多くの買い物客でモールは賑わっていた。その喧噪の中、突如としてガラスが割れる音と悲鳴が上がる。

リリは遠くから聞こえる悲鳴、そして恐怖に駆られて一気に出口へと駆け込もうとする他の買い物客の波に一気に巻き込まれる。



「きゃっ!?」



「あっ!?」




 まるで津波の様な人波はリリと優たちの4人は巻き込まれてしまう。なんとか離れまいとお互いの腕などを掴み、ワケも分からないまま出口へと走る。

そして近くに二宮もまた、人波に巻き込まれて突き飛ばされる。そして二宮は津波の様な人波の中へと消えていった。



「あっ、天野さんっ! こっち、こっちっ!」



「う、うん!」



 リリはなんとかはぐれないように人波をかき分け、押されながらエスカレーターを勢いよく降りていく。リリは見えなくなった二宮のことを少しだけ気にしながらも、出口に向かって走り続けるのであった。

一方でその悲鳴の”爆心地”の中心では怪物とそれに踏みつぶされた哀れな被害者たちがいた。




「グッ、……グフッ」



 怪物はその巨体を揺らしながら黒光りした蹄で被害者を楽しげに踏みつける。既に息がない哀れな被害者は潰れたトマトのように血肉が広がった床へと臓腑をまき散らす。

頭には一対のねじれた太く短い角が生え、前に大きく付きだした口からは鋭い牙を覗かせる。そして体高は2メートルを越すほど巨体を持ち、漆黒の毛皮に覆われた怪物は、まるで神話に出てくる”ミノタウロス”そのものであった。そしてその横に3人の頭からつま先まで真っ黒な人型が割れた天窓から降り立つ。



「グフッ、グフッ。 ……あア、強イ奴、捕まえル。戦闘員どモ、活きがいいヤツを捕まえロ」



「ハッ! 牛型怪人ミノタウ様!」



 黒い人型たちは牛型怪人ミノタウに命じられるまま、避難をする客たちに後ろから飛びかかる。



「ばっ、化け物!?」



「助けてっ」



「邪魔だ、どけっ!」



「なんなのこいつ!?」



 ある客は悲鳴を上げ、ある客は泣き叫び、ある客は別の客を突き飛ばして己だけ逃げようとする。一方で牛型怪人ミノタウはゆっくりと自身が突き抜けてきた天窓から振りしきるガラス片を身震いして振り落とすと、逃げ惑う人たちに向かって飛びかかる。

押し合いへし合い、怪物から逃げようとした男性客の1人の腕を掴むと、無造作に放り投げる。



「ひっ」



 それがその客の最後の言葉となる。1階の高さから軽々と3階の高さまで放り投げられ、そして元の1階へと落下する。

太枝を折るような音が辺りへと鳴り響き、その音を聞いて尚のこと人々は悲鳴を上げてモールの出口へと駆けていく。だが、不運なことに牛型怪人ミノタウに捕まった人は次から次へと高く放り投げられ、そして固い床に真っ赤な血溜まりを作り上げる。そのミノタウロスの殺戮遊びが始まって少しした頃、騒ぎを聞きつけた数人の警備員と警官が逃げ惑う人たちの合間を縫って牛型怪人ミノタウの近くまで走ってくる。



「う、撃てっ!」



 警官の1人が声を荒げる。それと同時に警官たちは拳銃を、警備員たちは高圧電流を流す暴漢鎮圧用のテーザー銃でミノタウロスを狙い撃つ。

モール内に数発の破裂音が響き渡り、鼻をつく硝煙の臭いが立ち込める。拳銃から放たれた弾丸は牛型怪人ミノタウの胸の辺りに辺り、テーザー銃も腕の辺りに突き刺さると一気に高圧電流が流れ込む。だが。



「それだケ?」



「……は?」



 牛型怪人ミノタウはそのことをまったく意に介さず、弾丸が当たった辺りを痒そうに掻く。通常ならばテーザー銃も電流が流れれば意識を失うほどの高圧電流だというのに、ミノタウロスは気怠そうにするだけであった。

そしてミ牛型怪人ミノタウは一歩ずつゆっくりと警官たちに向かってくる。



「ひっ……ひっ……」



 銃倉が空になっているにも関わらず、恐怖のあまり引き金を引き続ける。

無情にも空となった拳銃からは弾丸の代わりにカチリカチリとした金属音しか吐き出されない。



「お前ラ、使えなイ」




 そして目の前に居る警官の1人の頭を掴むと、別の警官へとおみきりぶつける。

まるで潰れたトマトのようになった2人の警官。真っ赤な鮮血が2人の下から溢れ、床に広がっていく。その様子に生きた他の警官や警備員たちはたじろぎ、恐怖の余り逃げ出していく。

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