無意識生成文章

 私は私が見知らぬ農夫と共に、大邸宅の中で巨大な怪物から逃げるという小説を読んでいた。


 無数の死体を繋ぎ合わせたような緑がかった怪物は、私の背丈ほどもありそうな鉈を片手に迫ってきている。その体躯に見合った筋力は凄まじく、振り下ろされる鉈の一撃は大地を揺らし、私の頬にビリビリと空気の振動が伝わるほどだ。衝撃波だけでも吹き飛ばされそうなのに、直撃でもしようものなら私は肉片になってしまう。


 成程、対して面白くもなさそうだ。自分の与り知らぬ所で自分が危機に晒されているのは不愉快だが、所詮は小説に描かれた私でしかない。私の死は私を殺さないと、そう直感した。


さて、ここで奇妙な事が起こる。どこからともなく飛来した酸の雨が、農夫を襲ったのだ。


 農夫の皮膚が泡立ち、火で炙ったマシュマロのように溶けていく。黄色がかった脂肪、ピンクの肉、オレンジの臓物……それら全てが溶けあった様は、水彩絵の具のパレットを思わせた。


 問一、酸の雨を被った農夫の気持ちを答えよ。


 ここで眼が覚めた。珍しく一度しか中途覚醒せず、私にしてはよく眠れた。私の無意識が生成した文章……休日に相応しい、爽やかな朝だった。

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