第八十話「首輪」

「それで、ルーちゃんの事はケイちゃんに言ったの?」


 ヒナコは俺の召喚獣を膝の上に乗せ、頭をひたすらに撫でている。


 召喚獣の名前はヒナコの独断で『ルー』に決まった。

 モンスターに性別は無いが、アレがついていないので女の子の名前にすることになった。

 光という意味があるそうなのだが、この真っ黒な身体には少し合わない気がする。


 しかし俺に反論の余地はない……



「さっき言おうと思ったけど止めた」

「怖がりそうだから」


 最近は忘れてきているようだがケイにモンスターを合わせるのは気を遣う。


「じゃあなんで私には言ったの?」

「隠しておいても良かったんじゃない?」


「まぁそのうちバレるのが目に見えてるからね……」

「それと、こいつ昨日から何も食べてないから何か食べさせてほしい」


 昨日の夜中から、ルーから空腹の雰囲気を感じる。

 やはり何かしら食べさせないといけないようだ。


 今はペットを飼えるほどのお金の余裕がないのでヒナコに頼るしかない。


「あぁ、そういうことね」

「だったら私の部屋で飼った方がいいかもね」


 ヒナコはそう言うと俺に満面の笑みを向けた。


「いや、そこまでは……」


「ケイちゃんに知られるのは嫌なんじゃないの?」


「……はい、よろしくお願いします」


 どのみちケイがいる時は部屋で遊べないしな……

 モフモフタイムが減るが仕方がない。

 頻繁にヒナコの部屋に顔を見せよう。


「それじゃあ決定ね!」

「朝の残りがまだあったと思うから持ってくるね!」


 ヒナコはそう言うとルーを膝の上から降ろし部屋を後にした。




 しばらくすると、ヒナコはお盆の上に見覚えのある食事と首輪を乗せて戻ってきた。


 ヒナコはお盆を机の上に置き、俺の膝に乗っていたルーを引きはがす。

 そして、首輪をルーの首に付けると自分の膝の上に乗せた。



「……その首輪どこから持ってきたの?」


「うーん……、たまたま持ってた」


「ふーん……」

「でもこいつ、外ではデカくなるよ?」


「だいじょぶだいじょぶ、フリーサイズだから」


 ヒナコはそう言いながら、ルーの首と首輪の間に自分の腕を通す。



 一昨日の夜のお散歩の件は忘れてるってことでいいのか?

 まぁ、詮索するのはやめておこう。



「それじゃあ、そろそろハリソンの見舞い行ってくるね」


 この後は報告書を出すついでにハリソンが一時入院している病院に行く事になっている。

 武器も点検に出そう。


「お昼はどうする?」


「ケイのとこで食べるから大丈夫」

「ヒナコもくる?」


「いや、私はいいや」

「ルーちゃんとお留守番してる」


「うん……、じゃあ行ってくるね」



 俺はヒナコの見送りを受けずに宿を後にした。

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