第七十一話「召喚」

「あぁ……、疲れた……」


 太陽の高さが低くなってきた。

 あと一時間程度で勤務は終わりだ。


 しかし、この疲れと引き換えにSPを40手に入れることができた。


 今はトランシーバーの充電中で時間があるし早速召喚するか……


「アクティベイト」


 俺はスキルボードを表示させ、持っているポイントを全て<召喚士>に振る。


「<召喚>」


 俺がそう唱えると、身体から何かが抜けていく感覚と同時に目の前に黒い靄が現れた。

 スキルボードに出てきた新たな表示によると、ここで核となる制約を交わす必要があるのだが、それはウィリアムさんから事前に聞いていたので特段焦る事ではない。


「同調と命を大事に」


 普通ならば命令に絶対順守とするらしいのだが、行動が狭まる事に加えいちいち命令するのも面倒なのでこの二つにした。

 緩すぎる気もするが、勝手な行動をし始めた時はまたその時考えよう。



 ふと気づくと、目の前にあった黒い靄が俺の腰の高さ程度の真っ黒な何かに変わると共に、ステータスが表示されていた。


 モンスター名は不浄猫と言うらしいが……、これは猫なのか?

 なんというか……、兎のコスプレをした狸?

 いや、でも遠目でみれば猫に見えなくもない。


 それにしても名前が不吉だな……

 体毛も真っ黒だし……


 返品したい気持ちは山々だが、後で可愛い名前を付けてあげよう。



 さて、ステータスは……




 ざっと見た感じ、ウィリアムさんの言った通り俺のステータスに引っ張られているせいか<AGI>関連に特化しているが、全体のバランスは良い気がする。

 数値的にはレベル1にしてこの辺りのモンスターでこの子に敵うやつはいないはずだ。


 そして、<共有>によってそのステータスの25%が俺に付与されている。



「よしッ」


 俺は立ち上がり、その場で何度かジャンプしてみる。


 良い感じだ。

 身体を痛めそうな恐怖感がかなり減った。


「……名前考えるか」


 にゃんきち……、ぴょんきち……、たぬきち……

 くろ……、ぶらっく……、のわーる……


 性別がないから中性的な名前の方が良い気がするな……

 せめて鳴き声が分かればきっかけが出来るのだが、モンスターなので声を発することもない。


 俺は空中に浮かび上がっているステータスボードを上から下に撫で下ろして消すと、空を見上げる。



「……ん?」


 壁の一部が青くなっている。

 汚れか?


 俺が目を凝らすと青い物がぐにゅんっ、とうねった。


 モンスターだ。

 だがスライムにしては大きすぎる。

 そもそもスライムがこんな場所にいるはずがない。



「地点B41、九時方向にモンスターを一体発見、距離900」

「……新種です」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る