第六十九話「11秒」
あー、やっぱ最後は全力を出すべきだったかな……
地味に悔しいな……
「アレンくーん、三位の商品ですよー」
仰向けで転がる俺の前にヅーリンさんが封筒を持ってやってきた。
「あ、ヅーリンさん」
「商品ってなんですか?」
サボれることが嬉しすぎて商品の内容をあまり確認してなかった。
「レゼンタック加盟店で使える商品券200ギニー分です」
あ、ちょっと嬉しい。
……まてよ?
「僕って三位ですか?」
「そうですよー」
「一位は?」
「いつも通りトレバーさんです」
「いつゴールしたんですか?」
「えーっと、あそこに書いてあるよー」
ヅーリンさんの指差す方向に目を向けると、[NEW RECORD]と数字が書かれた看板が置いてある。
[NEW RECORD 00:11]
11分……で合ってるよな?
「ヅーリンさん、あれって11分ですか?11秒ですか?」
「11秒よ、確か去年が13秒だったと思う」
そんな馬鹿な。
いくらこの世界が馬鹿げていたってこんなのは不可能だ。
「おい、アレン!」
「早くいくぞ!」
俺は寝ていた身体をノアに起こされ、もたれ掛かりながら足を進める。
なんだか力が抜けてしまった。
というかノアはこれを知っていたのか。
卑怯だな。
「で、どこ行くの?」
「おじょ……、アメリアさんの所に決まってるだろ?」
「え、いま?」
「お前は口が上手いからな」
「今やらないとはぐらかすだろ?」
ノアはそこもお見通しか……
俺はテントの近くまでノアに連れられると、主催者席に座っているアメリアさんの後ろにゆっくりと近づく。
「アレン君、三位おめでと!!」
言い逃げしようと思ったのに先に話しかけられてしまった……
「すぅ……」
「お譲、昨日はプレゼントありがとうございました!」
「近いうちに着けて見せに行くので!」
「それにしても昨日はヒナコが悪酔いしちゃって大変で!」
「片づけがあるので帰りますね!」
俺は早口でまくし立て、素早くその場を立ち去ろうとする。
しかし、アメリアさんが振り返って満面の笑みを見せた瞬間、俺の身体は石のように固まってしまった。
「へー、ヒナコちゃんお酒で酔ったんだ……」
「可愛かった?」
「いや、まぁ……」
「じゃあ片づけあるので帰りますね!」
「うん、お疲れ様!」
「それじゃあ12時からお仕事入れとくから頑張ってね」
アメリアさんの笑みが真顔に変わった瞬間、身体の硬直が解けたので慌ててノアがいる方に逃げ帰る。
「よお、どうだった?」
「……ノアが俺に指示してたのバレてるから今すぐ謝りにこいだって」
「まじかよ!」
ノアは俺の言葉に乗せられてアメリアさんの方に近づき、しばらくすると肩を内に丸めながら戻ってきた。
「おい、アレン!」
「俺まで仕事が入ったじゃねーかよ!!」
「まあまあ……、それより昼飯食べに行こうよ」
「もちろんノアの奢りで!」
「ほんと調子いいやつだな……」
「よし、レゼンタックに戻るか!」
ノアはそう言うと俺の尻を叩いたので、俺もノアの尻を叩き返す。
まぁ、準備運動と思えば悪くなかったな……
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