第四十一話「美人の香り」

「アクティベイト」


 あのクソ鳥は8ポイントか……、美味しいな。


 俺は<貧者>に今日で得たポイントを全て振ってから壁の中に入る。


 一日で30ポイント以上のSPが手に入り、新たに<怯懦>を得ることができた。

 この<特能>は敵対する相手から弱く見られる能力らしいのだが、活用方法がよく分からない。

 常時発動型なのでチンピラに絡まれないようにだけ一応、気を付けておこう。




「ヅーリンさん、レインコートってまだ出してないんですか?」


 俺は認識票をフックに掛けると、近くにいたヅーリンさんに話しかける。


 今日の雨はこの世界にきてから4番目に酷かった。

 スーツとインナーの防水機能が優れているため今まで小雨ならば無視していたのだが、今日のような雨だと走っている時に目が開けづらい。


「来週から出すつもりですよー」

「雨そんなに酷かった?」


「靴の中は終わりました」


「それってレインコートじゃどうにもならないじゃーん」

「ま、とにかく一週間、我慢してね」


「……はい」

「おつかれした」


 俺はヅーリンさんに会釈をすると階段を降りてレゼンタックを後にする。



 ユバルさんの店で靴の防水グッズを探そう……




 カランカランッ


 相変わらずこの店の扉は重い。

 目の前にある大剣の様子も相変わらずのようだ。


「ユバルさーん」


 俺が店の奥に向かって声をかけると、ユバルさんがのそのそと出てきた。


「あ、ユバルさん」

「武器の点検に来ました」


「おぉ、そうか!」

「そしたらケースごと預かるな!」


「点検ってどのくらいの時間かかりますか?」


「そうだな……」

「1時間半ってとこか?」

「店を離れるなら12時ぐらいに戻ってくれば終わってると思うぞ」


「じゃあ飯、食ってきます」


 俺はユバルさんに短剣のケースを預けると、店を離れた。


 10分ぐらいで終わると思ったのだが、急に暇になってしまった。

 またレゼンタックに戻って昼ご飯を食べるのもあれだしな……


 よし、久しぶりにパストラミサンド食べに行くか!




 俺はデリカサンドの中に入り席を確保すると、靴紐を少し緩める。

 昼食にはまだ早い時間なのか混雑は避けることができた。



「お待たせしましたー」


 俺は皿の上に乗って運ばれてきたパストラミサンドを行儀よく膝の上に手を置いて目で追う。

 間近で見るのは二度目だが、やはり肉の量が多い。



 ……うめぇ。


 この町もずいぶん慣れてしまった気がしていて、あの時の感動をもう味わえないと少し心配していたが、そんな事は無用だったようだ。


 このスパイスの効いた薄切り肉、酸味のあるシャキシャキキャベツ、チーズの油分と鼻から抜けるライ麦の豊潤な香り。


 マジで美味い。美味すぎる。



「……ごちそうさまでした」


 俺は軽くなった皿に向かって手を合わせると席を後にする。


「おい兄ちゃん!」

「これ嬢ちゃんに持ってけ!」


 俺が店を後にしようと思ったその時、後ろから店員のおっさんに呼び止められた。


「ありがとうございます!」


 受け取った紙袋の中からは甘い香りが漏れている。

 これでドーナツをもらうのは数度目なので少し申し訳ないが、貰えるのもは貰っておこう。


「また来いよ!」


 俺はおっちゃんに対して半身になりながら店を出ようと思ったその時、颯爽と店の中に一人の女性とすれ違った。

 その女性はおっちゃんに軽く挨拶をすると厨房の中に姿を消してしまった。

 確認できたのはシルクのような長い髪に、粉雪のような肌。

 顔は見えなかったが美人の気配がプンプン漂っている。


 店に戻って顔を確認するのも変だしな。

 出待ちするのもな……


 あ、従業員なのかな?

 ちゃんと顔見とけばよかった……



 変な事を考えていないで、さっさとユバルさんの店に戻ろう。

 あの白い髪は目立つしそのうちまた見かけるだろう。

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