第三十二話「イノシシ犬」

 昨日は散々だった。


 昨日はなぜかモンスターのバーゲンセールで9体も出てきた。

 そのせいで疲れていたのに仕事終わって早々にコビーさんに捕まり、コビーさんと離れてからこの一週間の話を3時間ほど話した上に、俺とケイとヒナコは無理やり夕食に連れられた。


 俺はコビーさんは嫌いではないが、得意ではない。

 なんてったって話が止まらないからだ。


 でも昨日のイタリアンは美味しかった。



 今日の任務地は壁の北東側で、もしかしたらオニがでるかもしれないので注意が必要だ。

 東門から海まで続く国道には担当の監視役がいるので大丈夫だが、万が一、国道にモンスターを逃がしたらすごい怒られる。



「地点A9、3時方向にチンギアレ一体を発見、距離800」


 チンギアレとはFランクモンスターで簡単にいうと痩せたイノシシだ。

 もはや牙の付いた犬と言えなくもない。

 初めて戦うが大丈夫だろう。


 それにしても段々とモンスターの発見仕方にも慣れてきた。

 とにかく動くものを探せばいい。

 1000mまでなら気合でなんとか見分けられる。


「……10-0」


「10-4」

「よし、いくか……」


 俺はイノシシの元まで走って近づく。


 俺は<ナイフ>にSPを40ポイント振った事を少し後悔している。

 なぜなら距離を縮める<特能>を得るまでには400ポイントかかるからだ。

 一昨日倒したリンシェンクスでSPを8ポイント得られたので、400ポイントなんてすぐと高を括っていた。

 だが、あのニワトリは1ポイント。


 浅い考え。

 馬鹿だった。


 だが、40ポイントも振ってしまったので後戻りはしたくない。



 そうこう考えているうちに俺はイノシシの目と鼻の先に到着する。

 本当は後ろから近づきたいが、南に国道があるのでしかたなく壁がある西を背に向ける。


 こうしてモンスターと正面から相対するのは初めてだ。

 イノシシも既にこちらに気づいているみたいだ。



 俺はゆっくりと近づきながら腰にある短剣に手をかける。


 俺とイノシシの距離が10mほどなった時、イノシシがこちらに急突進してきた。

 その加速度は凄まじく早いが、こいつは急に曲がれないことを知っているので距離が2mほどになった瞬間に身体の向きを変えながら安心して脇にそれる。

 そしてすれ違いざまに体勢を低くしながら鞘から短剣を抜いてイノシシの左前脚の腱を斬った。


 イノシシは俺の横を通り過ぎると、足を引きずりながら大きくUターンをして再び突進してくる。

 だが、先程よりも格段に速度が落ちているので、俺はもう一度イノシシの脇にそれるとイノシシの右前脚の腱を斬った。


 これでもうこのイノシシは突進することはできない。

 やっぱり勉強は大事だ。


 俺は地面に顎をつけているイノシシの後ろからゆっくりと近づき、首振りに気を付けながら頭頂部から核を両断した。



 ギュチュンッ


 俺は柄まで刺さった短剣をゆっくりと引き抜き、血をイノシシの毛皮で拭う。

 思っていた以上に短剣が深く刺さってしまった。


 やっぱり鍔がないと止まってくれないな……


「10-0」


 俺はイノシシが溶け始めたのを確認すると指令室に報告する。


 初めて真正面からモンスターと戦うのは緊張したが、これで一件落着だ。

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