第八十四話「午後休」

「よし、今日はこんなもんだな!」


 ノアは槍の切っ先を地面に降ろす。


 結局、あの一回がノアに刃が届く最後のチャンスだった。


 それにしても、疲れた……

 これでは身が持たない。


 グローブを取り腰に差しておいたおいた赤い花に触れると、花びらが4枚散った。


「アレン、武器はいつ取りに行くんだ?」


 ノアは槍を持って武器庫に向かいながら俺に聞いた。

 俺は短剣を持ち、ノアに続いて武器庫に入る。


 偽物とはいえ、やっぱりこの光景はいつ見ても心が躍る。


「えっと……五日後」


 俺の返事は静かな武器庫の中で小さくこだました。


「おう、そうか!」

「短剣が届くまではとりあえず毎日このメニューやるからな!」

「そしたら午後は三階の窓の修理の手伝いをしに行け!」

「昼飯食ってから1時頃に顔を出せばいいからな!!」


 ノアはそう言うと武器庫から出ようとする俺の尻をひっぱたいた。


「……で、その後は?」


 俺は武器庫から出ると身体に付いた砂埃を払い、靴紐を少し緩める。


「おう!それが終わったら帰っていいぞ!」

「その代わり、家で渡したモンスターの生態表を丸暗記しておけよ!!」


 ノアはそう言い残すと颯爽と建物の中に入っていってしまった。


 ……やったぁ

 昨日の反省もあるので、丁度モンスターの生態表を深く読み直したいと思っていたところだ。


 運動場の時計を確認すると、12時10分を指している。


 さて、昼飯はどうしよう。


 正直、ケイが働いているレストランには行きにくい。

 となれば、この町の事を知らない俺の選択肢はデリカサンド一択になってしまうのだが、1時に戻ってくるのだと割とギリギリだ。



 仕方ないか……




「こんにちはー」

「チーズサンド一つください」


 デリカサンドの店内はかなり混んでいたが座る席はありそうだ。


「お席に座って少しお待ちください」


 いつものおじさんは奥の方でせっせとサンドイッチを作っているらしく、カウンターで接客していたのは女性だった。


 俺は言われた通り、セルフサービスの水を持って店の一番奥の二人席に座った。



 しばらくして、テーブルにチーズサンドが運ばれてきた。


 こんなに美味しいのに、前回と前々回に来た時はかなり空いていたので不思議だったのだが、ただ運がよかっただけのようだ。


「うん、美味い」


 昨日は気が散って味わえなかったが、今日も時間があまり無いので味わうのも程々で止めておく。



 俺は10分もしない内に大きなサンドイッチを食べ終わると、お金を払い、レゼンタックの方向に戻った。


 

 お金に少し余裕ができたら、パストラミサンドをお腹いっぱい食べたいな……

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