第七十二話「首長鳥」
俺は紙袋を脇で抱えて壁の方に向かう。
思ったよりも、手荷物がごちゃごちゃして歩きにくい。
何度も持ち方を変えて結局、正面に両手で抱え込む形になった。
壁に着くと、外に続く長いトンネルの中に入った。
人混みの中、たくさんの足音がこの空間に反響している。
やはり、このトンネルには不思議な雰囲気がある。
壁の外に出るとアスファルトで舗装された道を西に進んでいく。
この町に来た時とは違い、混んではいないものの、そこそこの人が歩いていた。
しばらく歩くと、ウォロ村まで続く川とその先にある森が見えてきた。
パッと見た感じ、モンスターの姿は見えないので安心だ。
俺は黒い道を逸れて緑色の草原に入り、南に向かって小走りで足を進める。
……バサッバサッバサッ
森に入る直前、頭上から何かが羽ばたく音が近づいてきた。
空を見上げると、首の長い鳥が一匹、俺の頭上を回っている。
確かあれは……カポウツェロとかいう名前だった気がする。
Dランクのモンスターだ。
「ちょっとやってみるか……」
俺は持っていた荷物を地面に置いてポーチから木の短剣を取り出す。
それと同時に、カポウツェロが地上に降りてきた。
真正面から戦う気はないが、興味本位で様子を見たい。
地上に降りてきたカポウツェロは俺に対して身体を横に向けながらも首をひねらせてこちらをジッと見ている。
カポウツェロはお腹側が黄色と白色で、背中は青緑の配色をしていて動物園にいそうな配色をしている。
身体と同じ長さ程ある長い首と、その先についている小さな頭と長いクチバシが特徴的だ。
そして、その頭についた大きくて真っ黒な目が少し怖い。
しばらくじっと目を合わせていると、カポウツェロが羽ばたきながらこちらに走ってきた。
思ったよりも遅くて拍子抜けしたが、一応反撃の体勢をとろうとする。
しかし……
ビューーー
風を切るような音がした瞬間、カポウツェロが大きく一度羽ばたくと空中に浮かびあがり、低空飛行のまま急加速して鋭いクチバシをこちらに向けて突っ込んできた。
「やばっ!」
俺は慌てて重心を下げ、カポウツェロと50cm程の距離で、体勢を崩しながらもギリギリ躱す。
カポウツェロは俺の脇を物凄いスピードで通り過ぎると、ふわっと浮かび上がり、かなりの高さまで飛んでいったと思えば、その場で俺の頭上を一周すると急降下してきた。
俺は地面に置いた紙袋を取って急いで森の方に向かって走り始める。
チラッと振り返ると、カポウツェロは先程よりも早いスピードで俺に向かって低空飛行のまま突っ込んできていた。
<遁走>の効果が発動したせいか、逃げ足は速くなっているものの、焦ってしまい上手く地面が蹴れない。
このままだと、間に合うか間に合わないか分からない……
「はぁ……はぁ……クソッ」
俺は森に入る5mほど手前、木の根元に向かって必死のスライディングをした。
カポウツェロは俺の髪の毛をかすめながら、木の手前で垂直に上がっていく。
俺は森に入るやいなや、慌てて木の陰に隠れた。
クチバシでなく、爪で攻撃してくる奴だったら多分やばかった。
しばらくカポウツェロの様子を見ていると、しばらく空を旋回した後、川辺に降りたまま動かなくなった。
「はぁー、もう……」
怪我をしなかったので良かったが、2日間とはいえ平和ボケをしていた自分を恨む。
せっかくユバルさんからもらった服はぐしゃぐしゃになってしまった。
これからはもっと慎重に行動しよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます