第六十八話「暖色」
「そういえばさ、あの本の青い龍に興味津々だったけどなんで?」
「もしかしてヒナコも見たことあるとか?」
しばらくいじり続けた炭は突くだけで簡単に崩れるまでになった。
隣にいるヒナコは少し汗ばんでいるようだ。
「……うん」
「実は私もケイちゃんと同じ10年前に空を流れていく青い龍を見たことあるの」
「でも、誰に話しても信じてもらえなかったから、ずっと夢で見たんだと思ってた」
ヒナコは俺の半ば冗談で言った質問に、思ってもいない答えを返した。
「ふーん、そうなんだ……」
ということは、もしかしなくてもアレは実在するのか?
10年前ということは……小さい女の子にしか見えない神様か何かか?
「……え?」
「もしかして、アレンはこれも前の世界で見たことあるの?」
ヒナコは驚いた表情をした後に少し頬を膨らませる。
「いや、ううん、見たことない」
「俺のいた世界でもこういうのは存在しない生き物としておとぎ話になってるよ」
俺はヒナコの不機嫌な顔を見て、遅れて驚いた表情を作った。
「じゃあ、もっとびっくりしてよ!」
「私が変みたいじゃん!」
ヒナコはそう言って俺のわき腹を、かなり強めに突き始めた。
「ウッ、イタッ」
「ごめんごめん」
「だってあの龍が実在するって言われても現実味がないというか……ね」
俺は言葉を濁しながら、自分の正当性を訴える。
『私が変みたいじゃん!』って言われても、龍を見たと言っている人は変人と言えなくもない。
「出たよーーー!!」
「……二人ともなにやってるの?」
ヒナコに攻撃をさせまいとヒナコの両手を俺が抑えていると、ケイが髪を湿らせてダイニングに駆け込んできた。
ナイスタイミングだ。
「じゃあ、俺もお風呂行ってくるわ」
俺はヒナコの手を振りほどいて早歩きでお風呂場に向かう。
「あ、アレン!」
「今日買ったパジャマは脱衣所に置いてあるからね!」
ダイニングを出る直前、後ろからヒナコの声が聞こえた。
俺はダイニングの扉を閉めると、足取りを緩める。
そういえば可愛いパジャマとか言ってたな……
脱衣所の扉を開けて辺りを見渡すと、かごの中に入った柔らかいピンク色をしたそれらしい物が見えた。
「まさかな……」
俺はそのかごに寄って中身を取り出すと、繋がった大きな布が出てきた。
ウォロ村で着ていたような、上下が繋がっているパターンだ。
この世界ではこのようなタイプが流行っているのだろうか……
俺は服を持って鏡の前で軽く合わせる。
ウォロ村で着ていたのと同じぐらい軽くて着心地は悪くなさそうだ。
……それにしても色がな。
思っていたより悪くはないが、初めての着こなしで少し動揺する。
「はぁ……」
俺はため息をつきながら、かごの中に服を戻すと、着ているパーカーを脱いでお風呂の中に入った。
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