第三十話「もう一つの決意」

「<猫足>」


 俺は足音を消してカイの背後に近づく。


「なにか用か」


 カイはこちらを見ずに、背中で喋った。


 やはりバレていたようだ。



「……本当に学校、行かなくていいのか?」


「……ああ、俺はいいんだ」


 カイが答えるまでに一秒ほど間があいた。


「この村は周りに危険なモンスターはいないんだろ?」

「アイツらがこの村にきてもあんなに高い柵に囲まれてるなら安全だよ」


「……カイが心配するほどこの村は危険じゃないと思うぞ」


 俺はカイをなんとか説得しようと試みる。


 様子を見るに、カイはかなり迷っているようだ。



「……俺はまだこの村に恩返ししてない」


 そう言うとカイは大剣を担いでこちらに振り返った。


「それでも……」「ケイを頼んだぞ」


 続けて説得しようとすると、カイは俺の肩を軽く叩いて村の中に戻っていった。


 それと同時に雨が急に強くなる。


「はぁー、……ステイ」


 俺はカイを追いかけようと思ったが、雨が強いので急いで家に帰った。


 今日、説得できなくても明日また話せばいい。



 家に戻ると、やはり雨漏りをしているようで床が所々濡れていた。


 俺は寝床の位置を少しずらし、横になる。


「アクティベイト」


 一応スキルポイントを確認したが、40ポイントのまま変わっていない。


「ステイ」


 俺は目を瞑り、どうにかしてカイを学校に連れていく方法を考える。


 カイの強さは素人目から見ても明らかだ。

 <職業>=才能とも言える。

 その芽をこの村で潰す必要はない。

 そして、その事はオムさんを含め、村の全員が思っている事だろう。


 だがカイの決意はとても固い。



「うーん、どうしたものかね……」


 カイの決意を砕くには村の絶対的安全が保障される必要がある。


「アクティベイト」


 俺は<守護者>で得られる<特能>をくまなく調べる。


 <守護結界>という<特能>があるが、これは一人に対してしか使用できないので、村の安全は保障できないだろう。


 俺が<結界師>の<職業スキル>に700ポイント振って<神域>を得ることが出来れば、ある程度の安全は保障できるがそんな莫大なポイントはどこにもない。


「ステイ」



 ……そういえば、強いモンスターが来るのは冬だとケイが言っていた気がする。


 ならば冬の間だけ休学することは出来ないのだろうか。

 それならばカイも納得してくれるかもしれない。


 明日オムさんに聞いてみよう。



「……寝よ」


 それにしても2週間後か……


 スキルポイントが得られない今、明日から暇になりそうだ。

 ケイと遊ぶ時間を作るのはもちろんだが、カイに戦い方の基本を教えてもらいたいな。


 あと、気になっていた村の謎が一つ解けた。

 川に魚が泳いでいないのにどこで魚を取っているんだ、と思っていたがどうやら行商人から買っているようだ。


 今思えば、少し燻製の香りがしていた気がする。



 ザーーーー


 夜が更けるにつれて雨が本格的に強くなってきた。


 俺は雨音で眠れなくなる前に眠りについた。

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